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人だって飛んでくる
2014/9/7 記
この週末も、何もないただ3畳のスペースに缶詰の、息苦しいだけの連休なので昨日の話の続きをしようかね。
俺がいた頃の甲府刑務は、オヤジだって殴られたり、刺されたりしてたくらいだから本当に物騒だった。
俺だって若かったからと言ってもそんなのにいつも首を突っ込んでたわけじゃないよ。
ある朝、工場で整列した時、目の前を体のでかいイラン人が飛んできた。
同じイラン人にぶっ飛ばされて飛んできたのだ。
やられたイラン人は転がりざまにすぐ立ち上がると、鼻血を出したまま相手のイラン人に向かって走り出し、飛び蹴りだ。
この二人、相撲取りのような体のデカさで、大きなゴリラが二匹戦っているようだ。
止めるどころじゃない。
近づくだけで大怪我する。
こういう時は黙って離れるに限る。
しかし人間があんなに吹っ飛ばされてくるとは驚きだった。体の大きいやつは喧嘩では得だ。
またある日、運動中グランドで歩いてた二人が喧嘩になった。
この場合、仲間が止めに入る時、仲間の喧嘩相手を止めずに、仲間の方を止めてしまうと厄介だ。
後で貴様どっちの味方なんだと大揉めになる。仲間を止めれば相手に攻撃のチャンスを与えることになるからだ。
やられてたのは同じ部屋の奴だったので、ジョギングしてた俺も走って急行したよ。やつはもう馬乗りになってやられていた。
非常ベルでオヤジ連中も大勢ビデオカメラ持参で駆けつけてくる。
そこへ、やはり同部屋の力自慢の同囚が通りかかると、馬乗りになってる奴の後ろから首に手を回した。その瞬間、馬乗りだった男はヘナヘナと崩れ落ちて気絶した。
恐ろしい力だ。あまりに早い気絶劇だったので皆、何が起きたかわからない。
今まで優勢だった奴が、突然寝ちゃうんだから…笑ったなぁ。
俺が駆けつけるのとオヤジたちが到着するのとほぼ同時。
その時は気絶した二人が寝ているだけという不思議な光景となった。
止めたやつは、何事もなかったように知らん顔で歩いて行っちゃったよ。
よくあるね。喧嘩してる二人より、止めに入ったやつが1番強いってこと。
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PS
やられた方は、前歯全部折られて食事が噛めず、刻み食材で飯を食ってたらしいけど、なんと25年ぶりに今回、網走刑務所で再会した。
総入れ歯で綺麗な歯並びしていたよ。なあ、サンちゃん。