府中の綱引き大会
2014/6/7 記
なぁ、綱引きってスポーツにも全国大会とかあるの知ってるか?
総体重を決めて8対8で一糸乱れぬチームワークで引き合うんだよ。
綱引きのことバカにしてないかい?
俺は色々スポーツやってきたけど、この単純明快なスポーツが1番面白いと思うようになった。
府中刑務所ではソフトボール大会がない代わりにこの綱引きがあったんだ。
各区に分かれた工場総当たり戦で約3ヶ月の期間で行うんだけど、練習も入れたら半年近くの間、運動時間は綱引き一本になる。
オヤジ達もチームを作って全国大会にエントリーしてるほどだから、本格的に教えてくれるわけだ。
作業中も、選手には隠れて練習させるんだからオヤジの力の入れ具合がわかる。
同じ体重同士の8人が引き合って優劣がつくのだから、そこはパワーとスタミナ。そしてチームワークが勝敗の鍵になってくる。
条件が同じだから、負けると悔しい。
俺は入所してすぐこの大会を見てすごく引き込まれた。
単純なだけにわかりやすいので、やってる方と応援してる方の物凄い一体感が生まれる。
ゲーム開始で、背中が地面に付くほどの姿勢で引き合ったままホールド。この動きのない踏ん張りが続くが、やがてスタミナが切れた者が一人でも現れると、ジリジリと半歩づつ引かれていく。上手いチームが引くと、この一歩がロボットのように揃って分散しない。
手に汗握るこの攻防が闘争心を煽るんだよ。
俺はこれがやりたくて3年間みっちりトレーニングしてやっと体重別のベストメンバーに入って、先頭で綱を引くことを許された。
コツを覚えると、この頃体重52キロしかなかった俺が、90キロの奴にも引き負けなかった。
無差別級もあるけどこっちはおまけだ。メインは体重別。やっぱり同じ条件で戦うことに意味があるからな。
最初はどこにも勝てなかったのが、チームワークが良くなってきたと同時に勝ち進めるようになるのも不思議だ。
俺たちは敗者復活戦から快進撃を進め、決勝まで行った。
相手は4年連続で優勝している18工場。毎年、刑の長い奴らがメンバーで経験豊富。
見事に負けた。大人と子供のように…。
奴らは機械のような力でびくともしなかった。何が違うのか不思議でならないよ、今も。
本当に夢中になれるスポーツだよあれは。
外に出れない北海道の刑務所。
綱引きでもやればいいのにね。
メンバー集めて、シャバでもやりてえなあ。
PS
俺って色弱だから、色を入れると少し変かもな、自分ではわからないけど。
中学生の時、写生が学年で張り出され、美術の先生に声をかけられて言われた。
「後藤、他の学校の美術の先生方がお前のスケッチを褒めていたぞ。今回のスケッチに来週色を塗った後が楽しみだと」
すっかりその気になったら、絵の具で色を塗った後を見にきた先生達は
「ああ、、、色入れたら小学生以下になってしまった」だってさ。
俺だって傷ついたよ。
写真は保護会の食堂。
部屋の番号で食事を受け取る。