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留置場から出たくないの

2014/12/21 記
 今日も留置場の話で締めくくるか。
今日は、シャブでもなく、アルコールでもない、生まれつきの人の話だ。
 小金井署の留置に入ってきた若いコンちゃん。動きはスローでどもりがある。
 その日のうちからやたらと薬を飲まされているから、シャバでも飲んでる薬なんだろ。安定剤と睡眠薬だ。
 精神科に通ってるらしく、知的障害なんだろうがとても愛嬌がある。
 お父さんの知人の焼き鳥屋で働いているが、すぐに飲み食いで金が尽きても、平気で無銭飲食するのでパクられる。
 事情が事情なので、支払いを弁償してもらってすぐに釈放になる。
 ところがこのコンちゃん、一度川越の少年刑務所に行ってるらしく、また行きたいといっている。
 なぜかと聞くと、

「うー。掘られたい」

と、バカなことを。
 変なこと教えられちまったんだな。コンちゃん、寝る時は俺から一番離れたところに寝てくれよ。
 そして担当に聞くとこのコンちゃん、どこかのヤクザの実子らしい。
 こんちゃんの頭にある無数の傷は事故によるものなのかと聞くと、そうではなく、親父にやられたものだと言う。しかしその数は尋常じゃない。
 なんとなく他人事とは思えないが、最近はどんなことで怒られたのかと聞くと、
 父親が再婚した、要は新しいお母さんのブラジャーをいじくっていたら、ビール瓶で引っ叩かれたと言う。
とにかく親父のことは怖くて仕方がないらしい。
 こんちゃんは飯を食う時、一心不乱に食う。焦ってるから胸につかえ、しゃっくりに苦しめられながらも蜂を止めない。
一日中薬のせいでぼーっとしてるがおとなしいので害にはならない。
 このコンちゃん、少々遅れた人かと思ったがすげえ特技を持っている。
 コンちゃんは、大変なディズニーフリークで休みはいつもディズニーランドに行くらしい。全てのアトラクションの名前や場所が頭に入っているばかりでなく、風景そのものが写真のように頭に入っているのだ。
 不思議なので俺は、試しにディズニーランドの観光ガイドを差し入れしてもらい、写真を見ながらコンちゃんに問題を出す。並んでいるショップの店名も、順番に全て答えるし、レストランのメニューから、建物の窓の数、ベンチの場所から、ゴミ箱の配置まで全て正確に答え、間違いは一つもなかった。記憶しているのだ。
 これには驚いた。
知的障害のある人には特殊な能力の持ち主が多いと聞くがこれこそがまさにそれで、本当の話だった。
 映画ツインズのはなしも頷ける。
 コンちゃんディズニーの関連で就職できないものなのか。真剣に考えた。
 この力はどこかで生かさなきゃならないのに、興味のないことには見向きもしない。そして興味があるものが唯一ディズニーだけなのだから難しい。

コンちゃんに、親父が迎えにきたらしく釈放となった。
 しかしコンちゃん、釈放なのに嬉しくないのか帰りたくないと泣いて出ていこうせずに逃げ回る。
親父に殴られるのが怖くて出たくないのだ。
ついに担当に引きずられるようにして出ていったが、
 俺のこれまでの経験から、釈放になりたくないと泣いたやつは彼しか知らない。

PS
俺も自分が何か障害を持ってると思っている。医学的な名前はわからないが。おっと、覚醒剤依存症とかは別だぜ。それは紛れもない事実で、本人が一番よく分かってんだから気にならない。
 それより、すぐにカッとなっても、俺が怒る理由が人に理解されなかったり、
好きとか嫌いより、可哀想な女にもってかれ、全力で貢いだりが治らない、同情を誘う話には乗らないようにしてても、だめだ。治らん。
 そして夢だ。こんなにリアルで、ほんとにそうだったかなと、夢と現実が混じってきてるし、
 最近は、保護会で生活してだいぶ経つのに、風呂に入るのに何も持たないでやってきて、裸になって気がつくし、ああ、やめよう、ボケてきてんじゃないのって言われんのがオチだ。

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