他人ごとにしといて
2014.5.11
昨日、年寄りに優しくしろ。なんて話をしたけどさ、俺ももう優しくされるに側なったかと感じるよ。
俺にはばあちゃんがいたから、若い時から年寄りには親切にしていたよ。電車やバスで席を譲るのはもちろんの事、近所の年寄りの朝のゴミ出しや、買い物荷物を階段の上まで運んでやるのは当たり前のようにしていたた。
え?信じられない?信じてくれなくて結構。人に見てもらいたくてしていたわけではないからね。
でも、そんなのが懲役生活ではあだになって懲罰に行かされたこともあるよ。ここは自分の事だけやってればいいところだから。
甲府に勤めていたとき、ミシン場で班長やってた俺は作業中あちこちから呼ばれては作業指導をしていたんだけど、ある時俺のほうからおじいちゃんの懲役に話しかけた。そして話をしていると担当台からいきなりオヤジが大声で「おい!吉川!おまえ許可とって交談してんのか!」と、怒鳴った。
普段から、おとなしく真面目なおじいちゃんは弱弱しそうに「すいません」と小さく言ってうつむいた。
俺が作業の手順を踏まずに話しかけたのが原因なので、悪く感じて「吉川さんごめんなさい。俺が話しかけたから」と謝った。
「いえ」と寂しそうにとうつむく姿にばあちゃんが重なった。
席に戻っても、申し訳なくて作業が手につかない。オヤジの野郎なん俺に言わずに吉川さんばっかり。俺を注意すりゃいいのによ。
班長やってて優遇されてたんだろうけど、そのえこひいきがまた気に入らない。
遂に腹に据えかねて、2時間後ぐらいたったころ、担当台までオヤジに物申しにいったよ。
「おい!あのいい方はないだろ。俺のほうが悪いのはわかってることじゃねえかよ」って。もう、けんか腰だ。
すると、オヤジはびっくりして「何の話だ?」って。
2時間もたっているから、オヤジは何のことかさっぱりわからん。
しかし俺は2時間でぱんぱんに膨らんでいるものだから、「なに、とぼけんのか」って担当台をつかんで揺さぶった。
これが、俺にとって最悪の結果を招く。
その日、担当台を新しいものに交換するってんで営繕のやつらが担当台の隣にボルトで固定せずに新しい台を並べて置いていたのだ。
やけにぐらぐらするなあと気が付いたときはもう遅いよ。
担当台と一緒にひっくり返って懲罰確定。
連れてかれる時、ふと見ると、吉川さんは、何もなかったように黙々とひとり作業してた。
ああ、他人ごとにしとけばよかった。
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あのおじいちゃん元気かなあ。