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お父さんがシャブをやめたわけ

2015(平成27年) 7月22日 記
 同部屋の69才のお父さんは14回の懲役のうち数回がシャブだ。
 もう30年シャブはやってないらしいけどどうしてやめられたのか。
 今日その理由を尋ねたよ。
 それは幻聴らしい。何回目かの刑務所を出所して一週間。久々の一発が相当効いたらしく、飲み屋で飲んでるとそれは聞こえ出した。
 『お前まだそんなことやってるのか!また捕まるぞ!』
 『早くサウナへ行って体から抜け!』
 あせったお父サンは幻聴の言いなりだ。
 サウナへ向かう途中も
 『持ってるものはドブに捨てろ』
と言われれば残りのシャブや注射器をドブに投げ捨てる。
 もう一回、もう一回と言われるまま一晩中サウナで過ごし、少々ゲッソリした翌朝、今度は
 『お前はこの辺にいるのは危険だ。故郷の青森へ帰って実家で休め』
と幻聴に言われると駅で切符を買って電車に飛び乗った。
 ドアの開閉のたびに鳴るベルを幻聴の奴は
 『お前のように薬をやってる奴に反応して鳴るんだ。じっとしてろ!』
と言う。
 お父サンは青森につくまでドアの手すりを握ったまま、ただただじっと動かなかった。
 実家に着いたお父サンを迎えた家族は具合でも悪いのかとお父さんの様子を不審に感じたようなので、まだ理性の残っていたお父サンは家族に迷惑掛けまいと、近くのビジネスホテルに泊まることにした。

そこで、この幻聴が消えるまで4日かかった。4日で終わったから良かったが、本当にイッちゃってる奴は一生この幻聴と付き合ってるんだろうネ。
 恐ろしい事だ。しかしこの幻聴の言いなりになってたお父サン。もしこの幻聴が
 『お前殺らなきゃ殺られるぞ!』
ってな類だったら大変なことだったろう。
 だから怖くなって止めたんだってサ。
 俺もこのくらい怖い思いをしたら、やっぱり薬を止められるんだろうけどネ。

PS
歳をとる事に、いまだに薬をやってる奴はもうかれこれ何十年とそのキャリアを伸ばして来ている。
 俺のように、懲役行って途中休憩してるやつは体に入る薬の量が少ないわけで一度も捕まらずやり続けてるようなのはとてつもない数字になる。
すると変わってしまったことを何年も会わなかった俺は気がつく。
しかしそういうのに限って、シャブで刑務所行ってた奴のことをイカれてると錯覚する。
理屈から言ってもずっとやってないのと、今までやり続けてるやっとでは明らかだがそれがわからない。

帰ってくるたび、そんな人を見るけれど長年の蓄積がどれほどのダメージを与えるかよくわかる。年々その怖さは身に迫るものがある。
もう、関わるのはやめにしよう。

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