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起訴状って?(他3話)

2015(平成27年) 6月6日 記


 20日間の調べで作った調書を元に、検事が俺を裁判にかけますよってのが起訴だ。
 その時には俺の手元には起訴状ってのが届く。
 起訴状には起訴事実が記載されていて、俺の今回は"覚せい剤の使用のみ"だ。
 俺の犯歴の中で最も軽い。これまで付いて来た、特例法でもなければ営利も付かない。麻薬向精神薬もないし大麻取締法だってない。

「使用」だけなのだ。死んだ親友のRが良く俺に言ってた。

『パクられたのは自分がアマチュアな仕事してたせいだ。チンコロされても仕方のない事やってんだから、それでやられたって自業自得だ。自分で責任取るしかねェ。警戒心が無さすぎんだよ。』

ってネ。うるさいバカヤロー。
なんて言ってたけど、後々になってあいつ良いアドバイスくれたんだナァと思う事たくさん有るよ。
 そうなんだ。俺は覚せい剤やったからパクられたんだ。
 この起訴状が全てなんだ。誰が俺を唄ったとか、誰に裏切られたとか、そんな事は関係ないのさ。そうだろ。
 ああ。あいつが生きててくれたら、
『その通りだな。』って言って俺が納得できるひとことを掛けてくれたんだろうネ。
 だって人間できてない今の俺はどうしても真実が知りたいんだから。

頭髪のイメージ

2015(平成27年) 6月8日 記


 警察署ではいつまでも髪の毛を伸ばしつづけるのもなんだってんで、起訴されてから検事がOKすれば散髪することができる。
 こうなってしまえば俺の場合、シャバと違ってケアできないのだから、一刻も早くボウズにしてしまいたい。
 その方が全然楽で清潔だろ。
 昔は警察官が刈ってくれていたのにいつの頃からかそれはダメになったらしく、前回、神奈川の小田原署では近所の床屋が来て1回3000円の料金を取られた。
 ここ蒲田警察では金を取ったりする事もないかわりにバリカン貸すから自分で刈ってくれという事だった。職員が手を貸すわけにはいかないきまりらしい。
 とはいってもどうしてもひとりではうまく刈れない。後頭部などは暗黙の了解で手を貸してくれるのだが。なーに。関係なーよ。トラ刈りだろうがウマ刈りだろうが。誰も見る人なんていねーんだから。
 とはいっても、足元に落ちた髪の長さ。ここ何十年も見たことのない長さだ。久しぶりに伸ばしてたのにこんなに早く刈り取ることになるとはね。頭髪のイメージ。
 同囚からは、若くてインテリぽかったという感じから10才老けて年相応。
 そしてなんとも人相は悪くなったと声をそろえて言われると、つくづく髪の毛って大事なんだと感じました。


幼馴染の参戦

2015(平成27年) 6月9日 記

 マサが面会に来た。俺の頭を見て、

『おお。いよいよ覚悟を決めたのかナ』

「こういうところに来たらボウズが一番。」

『今日はチャマの伝言を持って来たよ。証人出るってサ』

「手紙出したんだよ。何て書いたか知ってるか?

『助けてくれ。俺を止めてくれ』

って書いたよ。こんなセリフ書いていいものかどうか悩んだけど、目をつぶって発信した。
 安いプライドはズタズタだよ。
 今も良かったのかどうか迷ったままだ。こんなこと言うのは長い付き合いで初めてだし」

『熱意は伝わったと言ってたよ』

「そうかい。これで断られたら、もう友人でいられなくなるものな。それが怖くて、手紙出すのをためらっていたのかもしれない。」

『ついに悟りを開いたかとも言ってたよ。薬止めるって言うとは思わなかったんじゃないの。』

「くーっ、上からだナ。でもこれで本当に止めなきゃならなくなったよ。」

『ガラ受けにもなるし、出所後の雇用主としても、オーケーだってサ。』

「俺がその気になったら会社大きくなるぜ。」

『職人なめるなって言ってたよ。ゴッサンを現場仕事で雇うってんだ。赤字覚悟に決まってんじゃん。』

「うるせえよ。」

『何か伝えとく事あるかい』

「いや。自分で手紙出しとくよ。

『チャマの出廷は無駄にしない』って」


ガキの頃のように

2015(平成27年) 6月10日 記


 先生が面会に来た。
 チャマの証人出廷を裁判所に申請したとの事だ。
 ちゃっちいプライドは全部捨てて、弱いところ見せて本音で幼なじみに手紙を出したと言った。

『ええ、手紙を受け取ったとおっしゃていました。病院の事とかも確認しましたが何が有っても出廷して下さるとの事です。
 一番有力な証人でよかった。』

「おかげで大っきな借りを作っちゃいましたけどネ。」

『まあお互いの言い分を聞くとおもしろい関係ですがいいんじゃないですかネ。そういうの・・・』

 良いか悪いか判らないけど、有力な情状証人の出廷が決まったことで先生は、この前俺が提案したクリニックか福祉の出廷は止めようと言って来た。特に福祉の林さんは良い面を知ってる分、悪い面も知っているので、検事側の質問を受けて色々言われてもヤブヘビだとの事だった。
 その時はそれがどんな意味なのかよく理解できなかった。
 俺としてはクリニックや福祉が出廷をOKするか断るかで俺の味方だったのか敵だったのかを計りたかったのだけれども、先生は問い合わせるまでもないとの風だったナ。
 最後に先生が、

『大学ノートやってますか?』って。

「ええ。勿論、毎日やってますよ」って答えたさ。それで先生に言った。

「先生。今日、自分すごく気分が良いです。チャマの出廷の事。事件の事以上に気が重かったけどやっぱり手紙出して良かったなって。
 なんだかガキの頃に戻ったように思えて、なんだか晴れ晴れしています。」

PS
自分の今を見れば、
何と安っぽいセリフなことか。
こんな日記は公開したくない部分だけれど、全て曝け出さなきゃ意味がない。
馬鹿な男と笑ってくれ。

(写真)
エープリールプールに怪我したと写真を送ったけれど、
騙されませんと一蹴された(笑)

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