写真の中の女
2014、4、16
さて、今日も、いつもと同じ。ひたすら木端の紙やすりかけ。
特に日記に書くようなことは何もない一日だった。
しいて言うなら、今後写真の差し入れの際は、裏にナンバー打って保管するんだってさ。
俺は写真は部屋に持ち込まない主義だから関係ないけどね。
えっ、どうしてかって?そりゃあ、写真を見ればシャバっ気出ちゃうからだよ。外の事は考えたくはないんだよ。(笑)
写真といえばさ、東京拘置所の図書工場で勤めた時、差し入れの写真の裏に検閲済みの桜版を押すのも俺の仕事だったんだ。
陰部、刺青、指の欠損が映ってるのをはじく仕事だ。
だからあの頃、外から入ってくる写真は全て見てるわけだよ。
ある日、恥ずかしそうにうつむいて正座する、裸の女の写真がはいってきた。
判を押そうと裏返すと、
「恥ずかしいからこんなの最後にしてよ」。なんて書いてある。
雑居で自慢でもするためか、男が差し入れさせたんだろ。
ところが男の注文は、それで終わらなかった。数日後また、写真が送られてきた。
「あれこの女、この前の女だよ」
しかし今回の写真の様子はこの前とは少々違った。化粧ばっちりで笑顔のカメラ目線だ。
裏には「もういい加減にして」なんて書いてあるが、その後たびたび送られてくる写真で、女が満更でもないことがよくわかる。
最初に送られてきた時の、恥じらいをまとった初々しい彼女の面影はそこにはない。
長し目を送り、ポーズをつけ、唇をいやらしくとがらせた別人がそこにいる。
まるで女優のような、自信ありげのカメラ目線だ。
彼氏におだてられてすっかりその気になったんだな。このアホ。
送られてくる写真の数はやけに増えてきた。
自分の裸がどんな風に見られてるのか、何に使われてるのか想像して、興奮してるんだなこの女。
「M」だ。遂に禁断の扉を開いたのかもしれない。
この頃の俺は、まだまだだったが、ふふふ、今の俺にはわかるぞ。
私の奴隷になりなさい。
何のこっちゃ。
こんな願い事を聞いてくれるんだから、優しい子かもなぁ。
羨ましい。