見出し画像

東拘の歓迎会

2015(平成27年) 6月27日 記


俺は特別頭がおかしいわけでもなく、眠剤や安定剤を飲みまくってるわけでもない。
 ましてやひどい水虫に悩んでもいないし、他人に移る伝染病を持ってもいないので雑居に入ることになる。
 しかし東拘では雑居に入る前にひと晩、新入房といわれる雑舎房で過ごさなくてはならない。
 ここでのルールや生活の仕方を教えてもらうという名目だが、まあ何かあったとき「教えられたろ!」と言えるようにとの敵の作戦でもある。
 オヤジ連中に「知らねーよ。聞いてねーぞコノヤロー」と言えても新入房で生活する教育係をまかされている同囚に対してはそれが言いにくい。
 と、させるのが官の狙いなのだから、教育係をする人間は多少それなりの人物でなくてはならない。
 要は高目の人。有名人や金持ち。そしてヤクザの親分とかネ。あそこの人たちはたいへんだよ。留置で菓子が食えなかった上、ここに来た当日は購入も間に合わないから、ごちそうしてやることになる。
 しかし、何のお返しもしてもらえないまま、新しい新入と入れ代わってしまうのだから太っ腹でなくてはならない。
 特に俺は金曜日に来たので一晩だけでなく休み明けまでお世話になるわけだ。
 房長は池袋の親方サン。組員の管理者責任で6年喰って控訴中。人の良い親方なので俺も来る早々あれよこれよ食いまくる。
 遠慮なしだ。親方も昔の人だから、らっきょう漬けたり、納豆を色々なものでブレンドしたりと東拘独特のしきたりを守ってる。

「おい、ゴッチャン。今日は缶詰め全部開けて特選海鮮丼を食わしてやるぞ」

と、1コ5000円もするカニ缶、うなぎ、ホタテ、シャケ缶をご飯と混ぜて味付けし出して、さあ、食え食え美味いからと、親方。
 親方をささえる2人の同房の方々の表情からも察しますところ、せっかくですが缶詰は別々に食った方が美味しいのでは?


PS
親方の布団の上げ下ろしなんかしてたあの2人。
 勘弁してくれって顔してたな。

PS
城田さんがパクられた。外泊の許可をとって東京に行ったものの、約束の日に帰れず、延長した日も守れずに強制退去になったひと。
 思うように行かなかったようで金を貸してくれと言ってきて、振り込んたとたんに音信不通だったあの人だ。
 まあ、散々遅れて返してきたけど、あの時はギャンブル勝ったのかと思っていたが、なに、仕事かけてたんだな、窃盗の。
 ここで知り合ったばかりの付き合い浅い俺に頼んでくるくらいだから、他に頼める人がいないんだろうと思うと、ここでシカトは男らしくない、なんて思ってしますのは悪い癖だ。
それで俺は前回の保護会のやつに50万行かれた。絶対貸さないと決めたのに同じことやってる。
何回痛い目見ても治らない。
保護会のみんなは、人が良すぎる。バカじゃねえのって感じだ。
一度金を返してきて案の定また貸してと言ってきた。
俺は、今の俺にはこれしか出来ないと微妙な金額の4000円を振り込んだ。
それをどう受け取ったかはわからないが、一度電話があった。

借りた4000円は1万で入れとくから、何か食いたいものある?

なんて具合に。
気を遣わなくていいから頑張ってよっていうと、他のやつにも電話してきて、色々飲み食いできるように見繕ってダンボール後藤さん宛に送るから分けてもらってなんて言ってる。
気が大きくなってんだから金が入ったんだろ。
なら、借りた負い目のある方を先に金を使えばいいのにあの人は違う。
 遊んだ後に金が残ってたら送るんだ。
 前回4万円を、返すと言った日に連絡が取れなくなって、少し経ってから電話で謝って待ってくれと言ってきたのに、その二、三日後に、いきなりどんちゃん騒ぎしてる飲み屋から電話がかかってきて、笑いながら

聞こえるー?

と、大笑いだ。友達がカラオケで何がパフォーマンスを見せているのか、一体何がおかしいかなんて電話で伝わってくるかよ。
 城田さん、余裕ができたなら、先に金を返して下さいね。そういうと、まずいなと思ったのか、早急に、あっやばいっ、と、気がついたようで

ああ、あれはねーあれはっ、プーッ、プーッ、プーッ
遠ざかる声と共に電話が切れた。
 ?あの野郎、都合が悪いと変な小芝居しやかって!
あぶねえ、電話叩きつけるとこだったんだあの時は・・・

いいなと思ったら応援しよう!