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暴力じゃ伝わらない
2014/12/16 記
作業中の新聞だからサボろうと思って読むんだけど、虐待の話が多いね。
子供に暴力しても何も生まれないと思うよ。俺はよくやられた。
小学校一年、まだ泳げないことに業をにやした親父は、区営プールの背のたたない大人用のプールに俺を投げ込んだ。
係員の静止も聞かず、
「俺の息子だ口出すな!」
と言って何度も何度も投げ込んだ。
殺されると本気で思った。いじめでしかない。今度のプールが恐怖になった。
俺は学校の夏休みの水泳教室に通って、
「先生!願いだからすぐに泳げるようにしてください」
と毎日毎日朝から夕方までプールに通い、先生に特訓してもらった。
俺の必死さが伝わったんだろう。
命懸けだからな。
翌年、俺は区の水泳大会で学年優勝した。親父は自分のスパルタ教育の賜物と信じてるようだが、それは違う。俺にはあの時、恐怖と憎しみしかなかった。
同じ頃、買ってもらったおもちゃを友達と交換したら殴られた。吹っ飛んでぶつけた頭はスッパリ切れた。小学生を殴るレベルじゃない。
「欲しくないんだから2度と買ってもらうな」
と言われた。俺におもちゃを買ってくれるのはばーちゃんだけだ。
あの頃から俺は知ってた。
ばあちゃんは俺だけが唯一の生きがいなのだ。
給料が出ると必ず俺をデパートに連れて行き、食事をして、おもちゃを一つ買ってくれる。俺が喜ぶ顔を見るのがばあちゃんの楽しみなのだ。
ある日デパートで食事をした後、おもちゃ売り場へ行った。
欲しいものがいっぱいで、あれこれ手に取ってみていたら、ばあちゃん。
「どれか一つだよ。どれがいいんだい」
でも俺は親父の言ったこと守らないと殴られるから、
「今日は入らない」
って答えた。そしたらばあちゃん「なんだい、遠慮してるのかい?一つならいいんだよ」
って。
「でも欲しいのないんだ」
というと、ばあちゃんはすげえ寂しそうに、
「なんだい、ばあちゃんは張り合いないヨォ」
って。
俺はばあちゃんを悲しませたような気がして俺まで悲しくなってきた。
だから買ってもらった。覚悟も決めた。
家に帰って親父が帰ってくるまで俺は震えてたよ。ぶん殴られるのは確実だったから。
親父は案の定すぐに気づく。
「この野郎言ったことがわからんのだな。こっちこい!気をつけして歯を食いしばれ!」
全身の力を込めて歯を食いしばって目を強く閉じた。
しかし鉄拳は飛んでこなかった。
その代わり、
「お前はばあちゃんには優しいな」
と言われたんだ。
その時どんなに殴られても泣かなかった俺が、この時は声を出して泣いた。
数ある説教の中で唯一暴力のなかった結末はこのときだけだ。
暴力しなくても伝えられることの方が絶対大事だよね。
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PS
その親父の福祉担当から手紙が来た。がんのため余命半年だそうだ。
一度でも岡山に行かなくてはならない。とにかく福祉の人宛に手紙と金を送った。
疎遠になってた親父だけど、俺にとってはたった1人のいい親だ。
お袋と同じ目に合わせたらいけない。
十八の時に借金残して失踪した親父が俺が四十になる頃、お袋と仲直りして甲府刑務所に2人で面会に来た。
もう、弱々しい老人なのに、おれは怖かった。