覚醒剤のすすめ
2014/11/2 記
連休始まりの昨日の話で、
「なにを偉そうに!」
と思ったか?
自分だって薬で何人もの人を、殺しはしなくともおとしめてきたろって?
そうだな、そう言われたらその通りかもしれない。
確かにこれまで相当の人数に数々の薬を売ったり、譲ったりしてきた。
でもね、俺はなにも知らない、経験のない人に、薬を教えたことは今までたった一人しかいないんだよ。
その一人というのはさ、まだ20代前半の、サラリーマンとして営業回ってるころ、会社の研修で共に講義を受けに行っていた大平さんだ。
その頃俺はすでに覚醒剤は常用していた。もちろんそのことを知る人間は誰ひとりいない。
そんなある日、講義の帰り道で彼が突然俺に言ったんだよ。
「後藤くん、覚醒剤ってやってみたくない?」
「えっ、なんで俺にそんなこと聞くんですか」
焦ったよ。何か知ってるのかと思った。すると彼は、
「後藤くんは真面目な反面、不良の匂いがするんだよね、だから聞いてみた」
なんていうのさ。
その人は俺の二つ上だったが、幼い頃から天涯孤独に生きてきた人なんだ。
俺は好きな先輩だったし、この人は口が固いだろって思った。
だから俺は
「本当にやりたいんですね」と言って、その夜先輩のアパートまで行き、注射してやったんだ。
感動してたな。小便が漏れそうになったって。
話がここまでだったら、きっと俺は、こんなに感動して、喜んでくれるならと、いろんな人を覚醒剤に誘ったかもしれない。
でも、先輩に誘われるままの、何回目かに、こう言われたんだ。
「ハマってしまったんだ。このままでは金銭的にも精神的にも絶対よくないから覚醒剤を切りたいんだ。でも自分自身じゃどうにもならない。幸か不幸か、後藤くん以外に薬の入手方法を知らないから、後藤くんと縁が切れたら薬とも切れる。
勘違いしないでくれ、後藤くんが嫌いな訳ではなく恨んでるわけでもない。
教えてくれと言ったのは俺だし、教えてくれたことに関してはありがたく思ってる。
俺の心の問題なんだ。
ごめんね。もう連絡しないでくれ」
と言って会社を辞めた。
俺はショックだったよ。好きな先輩だったから余計に。
薬がらみじゃ絶対にいい関係なんて生まれない。
だから俺は他人に勧めたりなんかしないんだ。
先輩が、そこまでして薬を切ったあれら30年。
俺はまだ薬を断てずに生きている。
PS
大平さん。今どうしているだろう。
会いたいけど
もし会ってしまったら
自分と真逆に進んだ彼の人生は、俺に後悔を与えるだけかもなぁ。