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男の引き際

 俺が懲役に行く様になって、今回、一番世話になってんのがヒデさんだ。
 お袋のことから、面会、差し入れと、…外のことは心配するなって。

 このヒデさん。大変なポン中だ。
…いや、ポン中だった人だ。
 そのよれかた、出来上がりかたはハンパじゃない。
 ある日帰宅しようと歩道を歩いて、いた。
 もちろん遊んだ帰りでビンビン効かせての帰り道だ。
 すると歩道に植えてある並木のうち、一本を見て、

「あれ、山本さん」

と、始まった。
 もちろん山本さんはシカトだ。
だって木なんだもの。
 ヒデさん、山本さんをジーッと見つめるが山本さんはすまし顔でそっぽを向いたままだ。
 この時のことを俺、聞いたんだよね。
 木が人間に見えてるのかって。
 そしたらそうじゃないらしく、目に見えているのは木なんだが、頭の中が知人の山本さんと思い込むという。
 ちょっと俺には理解できない話なんだが、それこそがシャブの怖いところなのかもしれない。
 そしてその山本さん、ヒデさんがなおも見つめる中、ずっとバンザイしたまま黙っている。

「よく疲れないな」

ヒデさんはそう思ったらしい。
 疲れるわけねーよ。だって木の枝なんだからさ。
 ヒデさん、シカトを続ける山本さんにイラついたのか、それなら少々疲れさせてやれ。とばかりに山本さんの腕、いや、枝にぶら下がった。
 しばらくして、

「ちくしょう、意外に頑張るな」

と、枝相手に我慢比べが始まった。
 絶対勝てねーよ。相手は木なんだぜ。
 朝帰りの早朝にずっとこんなことやってたから、警察に保護されることになった。
 笑える話でもあるけど怖い話でもある。やっぱ薬は恐ろしくて不思議だ。
 でもこのヒデさん、兄弟たちがお袋さんを施設に入れるというのにひとり反対し、自分が一番お袋に迷惑かけたのだから自分が面倒を見ると言って、一切の薬から足を洗った。
 お袋さんと一緒に住んで、介護しながら十数年が経つ。
最近は俺のことも忘れてしまっている様だと寂しげに言っていたが、俺はこのヒデさんこそが優しく、人間らしい男と思っている。
 俺も今度こそはヒデさんの様にかっこいい男の引き際を見せたいよ。

PS
こんな日記の内容が出てくると、今の自分が情けなくてノートを写しててやになる。
 口先だけの内容は飛ばそうかと思うがそれじゃ本当の自分を隠す様なものだから恥を忍んで掲載する。
 ヒデさん、連絡したいけどクソミソ言われるのがわかってるからしにくいな。でも、連絡しなきゃ。

(写真)
絵日記で使っている雑記帳が遂に16冊目になった。残刑から見てもこれが最終回巻になるなぁ。
 しかし毎日ひとつだぜ、頑張ったと思わないか?ノートの束を見てちゃんとやり遂げた自分をいつもほめてるよ(笑)
それにしても、イラストってのは描けば描くほど上手くなるって気がしないか?最初の頃の絵日記見ると修正したいとこたくさんあるよ。
でもそこはそのままいくよ。俺の成長過程も見てほしいからな。

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