このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない その7.
土地の力
あれは、たしか二度目のリスボンだったと思う。
滞在していたメリディアンを朝早く出発して、 私は、ファティマをめざした。
1917年、マリア様が降臨し、3人の少女たちに予言を伝えた、 というローマ法王も認められている奇跡が起きた地で、 カトリックの聖地のひとつに数えられている小さな町だ。
バス停を降りると、 さっそく聖母マリアを祀るバジリカという礼拝堂に向かったが、 その前に広がる広大な広場には圧倒された。
毎年、5月から11月の12,13日に行われる聖母出現祭には 10万人もの信者で埋め尽くされることもあるという。 想像しただけでも凄い迫力だ。
歩いているうちに、私は、なにか他では感じられないものを感じた。
「聖なる」といえば月並みか。
どこか透き通ったような、言葉ではうまく表現できないが、 そこにいるだけで気持ちのいい状態になった。
そして、思った。
「そうか、そこにいるだけで気持ちのいい土地というものがあるのだな。 これを土地の力と呼ぶことにしよう。 土地の力のある土地を天草に帰ってさがそう」
ホテルに帰り着いたのは、夜遅くだった。 ホテルのバーに行った。
その当時、私はリキュールのカンパリをロックで飲むのが好きだった。 酔っぱらうまで飲んで寝た。