
このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない その9.

『Hideaway』
その頃、アメリカでは、 「Hideaway:ハイダウェイ」という言葉がもてはやされていた。
「ハイダウェイホテル」や 「ハイダウェイレストラン」などという使われ方で、 日本では、「隠れ家」と訳されることが多かった。
つまり、大通りには面していないお店や施設で、 行くには不便であったり、遠かったりするが、 それ故に行くだけの価値があると思わせるお店や施設である。
ホテル業界では、エポックメイキングな出来事として、 1988年のアマンプリのオープンがある。 その後にも、アマンリゾートや個人のホテル経営者たちが、 それまではホテル運営など 成り立つはずがないといわれてきたような辺境の地に 小規模のホテルを造り、成功した。
グローバリズムという言葉は、まだあまり使われてはいなかったが、 確実に世界は狭くなりつつあったのであり、 伊賀屋の周辺環境についての問合せをされるお客様方も こういった消費動向のなかのひとつの動きであろうと思っていた。
当時、黒川温泉がとても人気を博していたが、 こちらもまた、そのような消費志向を持つお客様方に 支持されていたのだろうと思う。 温泉街全体が、民芸色調を演出し、雑木を植えて 黒川温泉らしさを創造した。
お客様は、何時間も車を運転し、 やっとたどり着いた川のそばの自然な露天風呂を楽しむ。
都会の生活者として、 そのような時間を持てることを欲していらっしゃったのだろうと思う。