『Summer of 85'』
1985年の夏。
僕達は汗だくになりながら歩いていた。
もう!!シンセサイザーYAMAHA DX-7の重い事といったら・・・!!
駅から徒歩30分近くかかる通い慣れた友人宅への道のりが、その日は100倍位かかっている気がする。
彼が練習に参加する条件として提示してきたのは・・・『機材を運んでくれる事。』
最初は余裕だった筈なのに、これが本当に半端ではなかったのだ・・・
そう。
気が遠くなって『天国』が見えてしまう程に・・・
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1985年の初頭から友人と温めていたバンド結成のプランは、思い掛けずトントン拍子に進んでいた。
最初に友人がギターを買い、幾つか曲を弾ける様になると、今度は僕がベースを買い一緒に合わせて弾く様になった。
それを知った友人達・・・既にバンドを組んでいたギターとドラム・・・が僕達に合流。
一気に形になる。
あとは練習場とキーボードだ。
バンドの練習場として友人宅の納屋の二階を使える事が決定。
早速皆んなで掃除をして機材を搬入。
ボーカルアンプには友人のステレオを使い、ギターとベースアンプは先輩バンドからお借りした。
あとはキーボードだ・・・
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彼をバンドに引き入れたのは、学年で唯一、シンセサイザーを持っていたからだ。
しかも当時最新鋭のYAMAHA DX-7。
音楽好きなら憧れてしまう夢のマシンだ。
しかし兎に角重い。
手が千切れる位に重かった!!
だが、遂にこれでバンドが出来る!!
コピーする課題曲が最高の選曲。
ブライアン・アダムスの『HEAVEN』だ。
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『RECKLESS』BRYAN ADAMS 1984年
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1984年の秋。MTVを観ていた僕達に衝撃が疾った。
『RUN TO YOU』
滅茶苦茶カッコイイ!!
バンドを演るならこういうナンバーだ!!
ブライアン・アダムスとジム・ヴァランスという鉄壁の名ソングライターチームと、天才エンジニアのボブ・クリアマウンテンという、最強の組み合わせにより、実に素晴らしいアルバムが誕生した。
僕達はこの素晴らしいアルバムからコピーする曲をピックアップ。
日夜個人練習に励んだのであった。
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『ゴメン、やっぱり僕には弾けない』
YAMAHA DX-7のオーナーである彼が、申し訳なさそうに小さく呟いた。
そうなのだ。
彼はメカマニア。
楽器としてではなく、一つの最新鋭マシンとしてYAMAHA DX-7を所持していたのだ。
勿論、全然可笑しい事ではない。
メカマニアだってイイじゃないか?
結局、ブライアン・アダムスの大ヒット曲
『HEAVEN』をバンドで演奏する事は叶わなかった。
しかし、その代わりにピックアップした曲が、バンドにとってプラスになるのだから不思議なものだ。
・・・さて。彼と一緒に駅に向かおうか。
YAMAHA DX-7。
しかし本当に重いよ・・・
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追伸
今回、文章を書くにあたり、久々にクレジットを見返してみると・・・
『HEAVEN』のドラムを叩いていたのが、ジャーニーのスティーヴ・スミスで本当に驚いた!!
今まで知らなかったよ!!!?
スゲーーーーーーーーーーーーーーッ!!