奥多摩遭難記 其之壱
今回、1995年の遭難の場所と過程について、ごく簡単に記述しておこうと思う(当時ワープロで記録したはずだが、現在のPC上にデータは移されていなそうだ)。
この写真は、武蔵五日市の駅前にある、周辺観光地図を撮影したものである。この地図右下の「払沢の滝」。1995年の11月(確か文化の日だった)、18歳のとき、紅葉狩りのためにここを訪れた。しかし、時期か周囲の樹種の問題で、紅葉は見られなかった。ただ、山の上の一部には紅葉が見られた。
また予定としては、フリー切符を買ったこともあり、バスで武蔵五日市へ戻り、さらに五日市線で拝島まで戻って、奥多摩駅を経て奥多摩湖へ行くつもりだったのだが、次のバスが二時間くらいは後だった。この時、午前十時くらいだったと記憶している。
山の上に紅葉があり、バスが来ないというこの状況で、当時の自分が出した答えが、歩いて山を越えて奥多摩湖へ出るというものだった。
それまで登山の経験など全くなく、今思えば山神にでも魅入られたとしか思えない、不可思議な判断なのだが、とにかく、払沢の滝から北西へと歩いた。
払沢の滝(2005年撮影)
地図の真ん中右あたりにある、神戸岩という名勝を通り、地図上で言えば斜めに左上へと歩を進めていった。
途中から険しい山道となったが、所詮は舗装路、どうということもなく、山脈の稜線上に出た。地図の鋸山というところである。
ここから、稜線上の、舗装されていない本格的な登山道を進んだ。
やがて、近隣の最高峰、御前山に着く。時間は、午後二時頃。払沢の滝からの標高差は千メートルくらいあるのだろうし、登山したことも登山するつもりもなかったためスニーカーを履いてきたのだが、特に問題もなかった。
御前山から奥多摩湖への距離は、そう長くない。上の地図を見ても分かるだろう(左上の湖が奥多摩湖)。しかも下りだ。武蔵五日市で入手した登山地図には、奥多摩湖のほとりまで、1時間45分と書かれていたと思う。日没までには下山出来そうだし、特に問題なく思われた。
途中、登山道が分岐し、稜線を外れ、北へ向かって降りて行く。地図で御前山山頂の左上にあるサス沢山の山頂に着いたかどうかは、記憶が定かではない。特に表示がなかったかもしれない。ただ、極めて近い地点まで到達したことは間違いない。
稜線から北へ向かう登山道は、あまり整備されたものではなかった。稜線の道と違って、利用者が少ないのだろう。気が付けば、道を見失っていた。自分の今いる地点が、登山道上なのか、外れてしまったのかも分からなかった。
今思えば、もう少し冷静になれば、自分が来た方向へと戻って行けば、明確に登山道と分かる場所に出られたのかもしれない。しかし、登山について何の知識も経験もなく、元々そのつもりさえなかった、一人で行ってしまった18歳の初登山なのだから、そんな冷静さは持ち合わせていなかった。
一度道を見失ったと思うと、焦りは募るばかりだった。焦れば焦る程、冷静さも失っていく。時間は既に午後三時を過ぎた。急がねば、日が沈んでしまう。そうなったら遭難してしまう(この時点で既に遭難しているのだが、そのことに気が付く余裕はない)。幸い、大まかな方角と地形は分かる。北へ向かって山を下りて行けば、奥多摩湖へ出るはずだ。気が動転した自分は、最早道でも何でもない森の中を、半ば駆け出しながら、降りて行った。
そして、斜面が、突如、今までとは比べものにならない程、急になった。
続く
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