見出し画像

おいしい日記帳 #1

うるわしきかな、親子丼

📍鳥開総本家 - 栄ラシック店

 午後5時、クーラーが効きすぎたカフェで彼の帰りを待つ。仕事がひと段落ついた。自動ドアの外はむわっと蒸し暑い。風があったかいね、と彼が言った。そうだね、(寒がりのわたしにはちょうどいい)この後どうする?17時だね、どうしよっか。
ー名古屋栄の夕暮れどきー っひらめいた!
5時だよ!5時!私が死ぬ直前に食べたいって言ってたの、なんだったか覚えてる?んー親子丼?そー!ラシックの親子丼、食べに行きたいな。
やったね、行こう。今日はちゃんとデートだね。
(たしかに、私たちいつも一緒に作業👩‍💻👨‍💻するくらいでちゃんとデートしたことなかったなア)
ともかく、直行便でラシックに向かう。

行く道の途中彼と私(島帰りの田舎娘)で、名古屋は寒暖差がすごいね、とヒートアイランド現象の話をしながらマスクの下にリップを塗っていないことを思い出した。

あれはたしか高校3年生のとき。
お母さんと栄でショッピングをして、かわいいカフェ連れて行ってもらい、目を丸くして美味しいランチを頬張るのが定番だった。けれどあの日は特別、初めて名古屋めしに挑戦したんだ。
溢れんばかりのとろとろたまごと、その膜に纏われてつやつやに光り輝く名古屋コーチン。その真ん中に黄身がひとつ、乗っているんだ。
箸でゆっくりね、ぷつっと黄色い惑星を割った瞬間に、世界中のだれもが心奪われるんだ。
それをだいすきな彼と食べられる日が来るなんて、今もずっと、夢をみているみたい。

あれはたしかラシックの7階。
ちょっとお手洗いに行ってきます。あ、俺も行く。女子トイレまでついてこないで。(笑)ああ彼はいつもそうなの、まるで子犬のよう。(私がメイクを直してね、イヤリングをつけにいくなんてこれっぽっちも知らない)

お待たせ。(待たせてなくても皆言うセリフだけれど、わたしは毎度、すこぶるトイレが長い女)うん!(しっぽをふりふりして迎えてくれる純な彼)
お目当てのお店は一番奥のつきあたり。彼は右側を歩きながら左肩をトゥントゥンするというつまらない仕掛けを繰り出してきたので、おばけはどこぞ!と言って笑った。

ドゥドゥンドゥンドゥドゥン、×2
ゴゴゴゴゴ
わたし史上最強のどんぶり屋、『鳥開総本家』のおな〜り〜
もう二人してテンションを正常に保てない、声色ミッキーマウス。

さあさあ中へどうぞ。選ばれたのは一番奥のつきあたり。一面ガラス張りの窓際。7階は久屋公園の木とどっこいどっこいの高さ、眺めはそれなりに良い。嗚呼、、しあわせのフラッシュバック。
さてさてなにを頼もうかな。
名古屋コーチンのプルプルプリンが好きだったのだけど、わたしはもう大人。今日はプリンセットじゃなくって、名古屋めし御膳にする。
あなたはどうする?めずらしく迷っている様子。わかる、全部おいしいもの。名前は忘れたけど、一番高いののご飯大盛りを注文した。

待っている間、わたしの写真を撮ってくれたので、私も彼の写真を撮った。
二人で撮ろうよ、と私は言った。さっきリップを直してきてほんとうによかった。だって今日はせっかくのデートだものね。

そうこうしているうちに、わたしたちの前に立ちはだかった伝説の親子丼。
彼の顔サイズはある、漆黒のフタをオープン。
嗚呼、これなんですよこれ。入道雲のあいだから差し込む太陽の光に照らされて躍るとり肉とたまごのダンス・ダンス・ダンス。

この瞬間を一生もんにしたいと何枚も同じような親子丼御膳の写真を撮りまくる私は貧乏性である。もう食べていい?(彼はいつだってしっぽをふった子犬のよう)うん!あつあつのうちに召し上がれ。(わたしは未だ写真と格闘中、次は彼のおいしい顔をとらえる番)

ン〜!これ、やばい。彼はおいしさのあまり語彙力を失っているようなので、口に人さし指をあてて集中しろと念じた。
そろそろわたしもいただくとする。おいしさのあまり血糖値が急上昇する予感。落ち着いて。ひとまず、すまし汁をひと口、そのあとにヒジキのおひたしをひとつまみ、さてさて胃袋のクッションができました。
つやつやたまごととり肉(ただの鶏じゃ、ありゃあせんよ)を大きなスプーンでいっぱいにすくう。口にいれたらよく噛んで、舌の先にあたる感触と、奥歯で噛む音、おいしいを五感で感じる瞬間わたしは、、わたしは、、、。(失神)

二口めで泥酔していくようなそんな感覚。

書きながらプリンが食べたくなってぜんざいヨーグルトを一パック食べる、そんな夜。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?