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寒さに足がかじかんだが

窓を開けると、雪が舞っている。

雪ではなかった。つむじ風に巻き上がる、桜の花びらだった。近くに桜の木は無いはずだが。どこから飛ばされてきたのか。

買い物の帰り道、桜の花びらがマンホールの蓋に並べられていた。近所の子どもたちの仕業か。

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翌日、本当に雪が降った。桜が散って、雪が積もった。不急不要ではない用事で通りがかった公園に、粉砂糖をまぶした大きな夏みかんがごろんとある。近所の子どもたちの仕業か。

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しゃがんで写真を撮る間、靴底に雪水が染みわたり、靴下はびしょ濡れ、つま先は温度を失っていく。

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駅舎に着くと、外の大雪で居場所を失くした一匹の雀が、コンコース内をちょびちょび歩いている。

家に着いたら雪が止んだ。

空に雲はなく、午後に少しだけ降り積もった雪を半月が照らしていた。通りは閑散として、くぐもった沈黙を、靴底に踏みしだかれる乾いた雪の音が破る。ストーナーは尋ね当てた大きな家の外で、長いこと立ち尽くして、しじまに耳を澄ました。寒さに足がかじかんだが、じっとしていた。

ジョン・ウィリアムズ (著), 東江 一紀 (翻訳)『ストーナー』作品社,p.56

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