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千鳥ヶ淵

昼に一人、近所のとんかつ屋。たまの贅沢。豚肉の柔らかさが格別、今日も感激。食事中、Uber eatsのドライバーが店に何人もやってきて、炎天下、店の外で配達の待ち行列を作る。

食後、帰宅して日記を書く。そのあとジムに行き、トレーニングしながら『ミメーシス』。古代末期に隆盛する武勲詩(史実や歴史上の英雄たちの武勲を称える叙事詩)は、世界観を騎士・貴族階級などに限定する、心理的葛藤のドラマが少ない平板な物語が特徴。それらがラテン語から民衆の言葉に訳されることによって、個々の画面に起伏ができ、人物にも人間味と生命が宿るようになる。

「民衆の言葉」フランス語と、従来のラテン語の比較が面白い。『アレクシウスの歌』より、家出したアレクシウスがローマの実家に戻り、父親(エウフェミアヌス)に食料と宿を求める場面を、それぞれの言語で叙述したものが引用される。まずはラテン語。

神の僕よ。私を見て、私をあわれみ給え。私はまずしい遠つ国の者です。私があなたのテーブルから落ちこぼれたパンくずで餓をしのぎ、神があなたの涙に恵みを垂れ給い、お家を遠くさまよっているお方の上にも、恵みを垂れ給うように、私がお家にはいることをお許しください。

E・アウエルバッハ(著)篠田一士・川村二郎(訳)『ミメーシス 上 ヨーロッパ文学における現実描写』筑摩書房,p.212

次にフランス語。同じ場面を描いているが、だいぶ違う。

御位高くして富める御方エウフェミアヌスよ。
どうぞ神の御名によって、あなたの家に私の宿りの場をお与えください。
私のためにお家の階段の下に病の床を置かせて下さい。
あなたの大きな悲しみであるあなたの御子息のためにも。
私はたいへん病んでおります。あなたの御子息のためにも、私に日々の糧を御恵み下さい。

同上,P.211

続いてAmazon Primeで英国のドラマ、『FLEABAG』を観始める。ShortCutsのレビューきっかけ。

深夜2時に好きな男から会いたいとメールが来たら?
出かけてたフリしてワインを飲み――
シャワーを浴びてムダ毛処理
勝負下着をつけて到着を待つ
そして何食わぬ顔で迎える

FLEABAG』Ep.1より

数々の悪癖に開き直る主人公の無頼ぶり。彼女がしきりに視聴者の方に振り向いて内心を語りかける、メタ的演出の多用がアクセント。登場人物たちのクズっぷりを冷笑させるドラマかと思いきや、最後には無常観が漂い始めて意表を突かれる。

父親:
カフェを?

主人公:
ええ

父親:
一人で?

主人公:
そんなとこ

父親:
どういうことだい?

主人公:
別に、くだらい話よ

父親:
いいから話して、聞きたい

主人公:
ブーと始めたの

父親:
いい名だ

主人公:
ええ、でも間違って自殺しちゃった
死ぬつもりはなかったの
浮気した彼氏に復讐してやろうと思っただけ
入院して面会を断って懲らしめる作戦よ
それで自転車レーンに突っ込んだ
骨折を狙ってね

でも相手が猛スピードで結果、3人死亡
ホント、バカでしょ

だから今は1人ってわけ

同上

トレーニングのあと、九段下駅に向かう。友だちと他所でランチしていた奥さんと待ち合わせ。駅を出て、千鳥ヶ淵に向かう。

武道館の前、剣道着姿の学生で賑わう玄関前を横目に通り過ぎる。科学技術館に立ち寄り、お土産屋をのぞく。科学の実験キットや、ドラえもんの教育漫画に群がるたくさんの子どもたち。泥だんご制作キットのガチャガチャや手作り嘘発見器に惹かれる。

皇居のそばをぐるっと回りこむように歩いて、ようやく千鳥ヶ淵に。ボートを漕いでみても良かったが、生憎、営業終了。緑の葉が茂る桜並木の、川沿いの道を歩く。きっと桜の花が咲く時期は人混みで大変だろうが、この季節は行き交う人の姿もまばら。川沿いに並ぶ高層マンションはどの部屋も天井が高く、窓は広く、ゆったりとしたテラスを備えている。きっと、桜が満開の季節は、花見客で賑わう歩道をテラスから見下しながら、シャンペインでも飲むのだろう。そう思うと、時々道を通り過ぎる地元民らしき人たちが、皆これら高層マンションの住人のように見えて、なんてことない服装も特別高価な装いに思えなくもない。そのうち沿道に、たっぷりの実に穂を下げるねこじゃらしが生えていて、これで野良猫でもからかえば愉快だろうと思った矢先に、野良猫が2匹。女性が一人、彼らにほぐした白身魚やキャットフードを与えて餌付けしていたので、黙って通り過ぎる。

その後、カフェで落書きなどをして時間を潰し、昨日に引き続き国際難民映画祭の映画を観にイタリア文化会館へ。映画『アレッポ 最後の男たち』を観る。

シリアの街アレッポは今日もまた昼夜を問わず爆撃が続く。そこには人々が逃げ惑う中、誰よりも早く瓦礫の中から生存者を救うため、爆撃地に向かう男たち「ホワイト・ヘルメット」の姿が。戦闘機が再び攻撃を仕掛けて来るかもしれない中、人々の命を救おうとする男たち。だが彼らにも守るべき家族がいる。自らの命を懸け、家族を危険にさらしてまで、そこに留まるべきか否か―。本作は筆舌に尽くしがたい苛烈な戦闘地で人々が見せる勇気と他者に対する人間愛を描く。

難民映画祭2018公式HPより引用

「ホワイト・ヘルメット」の男性たちは、爆撃された市街地の瓦礫の山から、人命救助のために重機やスコップを駆使して掘って掘って掘りまくるのだが、いかんせん、ロシアからの空爆が多すぎて、掘っても掘っても次から次へと瓦礫の山が出来てしまう状況。瓦礫だらけの廃墟のような街並みは圧巻。賽の河原の石積みのような徒労感と虚無感に耐え忍ぶ彼らにも、家族があり、日常の生活がある。時に歌い、踊り、冗談を飛ばしあい、子どもたちと遊んでやる。空を飛ぶ機影に怯えながら。戦時下の日常シーンの丁寧な挿入は、映画『この世界の片隅に』をどこか彷彿とさせる。男性たちが、宿舎の庭の瓦礫を掃除して、そこに新たに池を作り、市場で買ってきた金魚を放流してやる場面がとても心に残る。魚たちがたくさん繁殖したら、俺たちも金魚屋を始めようか、などと冗談を交わす男たち。

映画が終わったあと、サイゼリヤで遅めの晩御飯。奥さんと二人でいつも以上に色んな料理を注文して、シェアしながら腹一杯食べた。直近のメニュー改定で、私たち二人に大人気だったミネストローネがメニューから消えた。それだけが心残り。ドリンクバーで、オフィシャル推奨のノンアルコールカクテル「MOCKTAIL」を片っ端から試してみる。「すっきり白ブドウ」と「トニックウォーター」に「レモンポーション」数滴で「ブドーニリモーネ」。ブトーニリモーネ?葡萄にレモン(リモーネ)か。「トニックウォーター」を混ぜると、どのジュースもほどよく苦みが加わって、大人向けの味になる。美味しい。

SmartNewsのトップに並んだ記事。

・15世紀の聖母子像、素人修復し派手なピンクや空色に スペイン(AFPBB News)
・大雨で運転取りやめや本数減の見通し 10日、北近畿の各JR(京都新聞)
・計画停電、11日まで実施せず 綱渡りの発電は長期化も(朝日新聞デジタル)

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