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放浪旅あいまい記憶日記 その8
<<<一匹の蚊で生死をさまよう>>>
1988年 秋ごろ
タオ島でデング熱がにかかった。
旅行者も地元民もほとんどやられたが、大抵は3、4日の熱で治るのだが
俺は重症化した。
肺炎にもなって、1ヶ月近く40度過ぎの熱が下がらず、食事はおろか最終的に 水さえも喉が焼けるように痛くなり飲めなくなった。
36キロしかなかった。
命を救ってくれたのは、ココナッツの水だ。若いココナッツの中の水はほんのり甘く体液に近い。天然の点滴と言われるほどらしい。
ココナッツのおかげで命拾いした。
タオ島で熱が出て動けなくなって、医者もいないし、寝てるしかないのだが苦しくて眠れない。1週間か10日か、もう朦朧として時間の感覚がないのだが、タラポーンがきてパンガン島の病院に行けという。
俺もその方がいいだろうと思い。まだ熱の高いまま大変な思いをしてパンガン島へ渡り病院につくが、お尻に何本も注射打たれるは、しかも夜中も起こされて打たれる。しかも何回も。大部屋なので他の旅行者がバイクで転んで呻いてるやつとかもいるし。
だいたい、注射針ちゃんと変えてんのか?とか思い始めると
なんというか、ここにいたら余計具合が悪くなりそうだ。1日だけ泊まって翌日逃げ出した。病院のある町沿いのビーチにあるバンガローを借りた。シーズンオフに突入するあたりなので日に日に旅行者が減っていった。
ある日、ヨーロッパ人がマラリアの薬を持っているからデング熱にも効くという、正常な時ならガセだとわかるのだが、なにしろ熱も下がらないし、藁にもすがる思いでその薬を飲んだ。それから数日間のたうちまわるほど苦しくなる。 症状がちょっと落ち着いてきたのでココナッツを頼もうと、レストランに行くと呼んでも誰も出てこない。無人だった。客は俺一人だし何も食べないので、事実上閉店状態で誰もいない。
どうしよう。最後の命の水すら手に入らなくなった。
絶望の中、苦しさは治まってはまた襲ってくる。
夜、苦しんでのたうちまわっていると、走馬灯が目の前に現れる。
ほんとうに走馬灯だ。
それは動画で小さい時からのシーンが次々と現れるのだ。
「死ぬのか」と思った次の瞬間、それまでの痛みや苦しさがなくなった
そして自分は、蚊帳の中のベッドの上で苦しそうにのたうちまわっているのを2mくらい離れたところから
見ているのだ。
淡々と
感情は一切ない。
死ぬのが怖いとか
悲しいも
寂しいも
嬉しいも
極めてニュートラルな状態だった。
しばらくのたうち回る自分を静観していると
頭の真ん中にすごく低いゆっくりとした声で
「薬を飲むのをやめろ。水晶を握って治ると信じろ」
と脳にダイレクトに響く。
次の瞬間に激痛が戻った。
朝、眠れぬ夜を過ごし意識も朦朧としている中 表から「ハロー、ハロー」という声が聞こえる。
俺はできる限りの力を振り絞り「へルプ ミー!」と何度か叫んだ。
ザッザッとこっちへ歩いてくるのがわかる。気づいてくれた。
「ハロー」と言いながらドアを開けて入ってきた彼は、俺を見るなり
「日本人ですかー!」
と久しぶりに聞いた日本語と、助かったーという安堵で 意識が飛びそうになるほど嬉しかった。
「なんか食べないと!食べたいもんないですかー!」と叫ばれたのは、俺がよっぽど痩せてたからだろうか。
「ココナッツの水」とかろうじて答えると
命の水を彼は持ってきてくれた。
「なんか食べたいものないですか。食べないとダメですよ」
「ヨーグルトが食べたい」
パンガン島には市販のヨーグルトは売っていない。シーズン中なら大きなレストランがホームメイドで作るのだが、オフシーズンなので売っていない。
「わかりました。探してきます」
2時間ほどして戻ってきた。
「ヨーグルトありましたー!島中探しましたよ」と笑顔で よく冷えた瓶入りヨーグルトを差し出した。
その時に食べたヨーグルトの美味しいさは
想像してみてほしい。1ヶ月間の断食明けの一口。命が助かったと思える一口。
あんなうまいヨーグルトはもう出会わないだろう
彼は命の恩人だ。
「タクシーで隣のレストランで降ろされて、誰もいなかったんで、こっちにきたんですよ。こっちも誰もいなさそーだなーと思ったら、ヘルプが聞こえたので焦りましたよー」と笑う、ゆうたくん。
「いやーゆうたくんが来なかったら、俺、死んでたよー。ありがとう」
ゆうたくんは日本の大学生で休み中の旅の最後にパンガン島にきた。
彼は隣のバンガローに宿泊し、何日か俺の面倒を見ながらカリンバを弾いていた。最後の日に、病気になる前に売ろうと思って作っておいたカリンバを売ってくれという。
「このウォークマンも買ってもらえないかな。俺マレーシアまでビザの更新に行かないといけないんだ」
この時、俺は文無し、オーバースティ2週間と絶体絶命大ピンチ状態だったのだ。
「いいですよ!」ととびきりの笑顔でokしてくれた。
なん度も言うが、彼は命の恩人だ。
ゆうたくんが、あれから何度か買ってきてくれたヨーグルトのおかげで、熱はまだあるが、ちょっと元気も出てきた。カリンバとウォークマンを買ってもらって、マレーシア行きの資金もできた。よし頑張って行くぞと、バックパックの中を綺麗にしようと逆さにして、降っていると『コロコロ』っと、水晶が出てきた。随分前にネパールで水晶をオーダーメイドでペンダントにしたお気に入りで、無くしたと思っていたけど、底にでも引っかかっていたのだろう。
「あ。水晶出てきた」
お告げの通りになった。
その水晶を拾い上げ「治る」と信じたのだ。
ー つづく
<<その7 その9>>
次回は、ビザを書き換えタイのパンガン島に戻り、鍛冶屋さんを見つけカリンバをつくるお話です。
読んでくれてありがとう!!幸あれ!
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