ストレスが無いと「廃」になる
おじいさんにフラれる
10数年前、横浜に住んでいた頃。ちょっと苦戦していそうなおじいさんを見た。
そのおじいさんは痩せ気味で身長は高く、動きはゆっくりとしている。自転車を押して車道から歩道に乗り上げようと踏ん張っていた。
見たところ、買い物帰りだろう。
前のカゴには西友の袋が。後ろの荷台にはダンボール箱がしばりつけられている。ダンボールの中にもいろいろ入っていそうだ。
この重たそうな自転車を力いっぱい押して、歩道まで乗り上げようとしている。
段差そこまでではない、5センチほど。
上がれそうで、上がれず前輪が戻される、
なんとも、もどかしく思いながらおじいさんに近づき
「後ろ押しますね」
と言って私は荷台に手をかけた。
おじいさんはハンドルを持ったまま、振り返って
「それはお止めください。」
と表情を変えずに言った。
まさかそんな風にフラれると思っていなかった私は言葉をつまらせる。だってそんな丁重にお断りされるとは。
まさか死体でも運んでいるのか!と思ったがそうではない。
「助けてもらってばかりだと、何もできなくなってしまうのでね。」
そうか、
このおじいさんは苦戦はしていたけど、別に困っていたわけではなかった。
この歳になると苦戦もしておかないと、どんどん衰えちゃうよね、ということだ。
あやうくおじいさんの邪魔をするところだった。いや、すでに邪魔したのか??
廃用性症候群とは
ストレスを取り除くと快適だ。ただし体は衰える。
これはおじいさんに限らず、全ての生物に言える。
歳だろうが、若かろうがストレスとなる刺激が無くなると退化の方向に傾くのだ。これを「廃用」という。
書くストレスが無くなれば漢字は忘れるし、動くストレスが無くなれば、ちょっと階段登っただけでゼーハーする。
病気などで長らくベッドにいると歩けなくなったり、肩の関節が上がらなくなったりもする。これは廃用性症候群と言われている。
普段は誰も気づかないが、重力も立派なストレスだ。
無重力で生活するとタンパク質合成量が減って筋肉は萎縮し、骨はカルシウムが溶け出してスカスカになる。
またバランスにも影響が出る。平衡機能が破綻し、フラフラになる。宇宙版廃用性症候群といったところか。
2018年6月に帰還した金井宣茂宇宙飛行士は「半年間重力から離れただけで、こんなにも体が動かなくなるんだという驚きを感じる。」と言っている。
訓練された宇宙飛行士でも重力が無くなるとここまでになってしまうのだ。
地球上で重力というストレスに晒されているから、生物は頑張って動く。
頑張って動いているから今の筋力、骨密度、平衡覚でいることができる。
生きている環境に重力というストレスがあるからこそ、身体機能が維持されているのだ。
重力が無い環境だったら、我々の姿かたちはフニャフニャのタコ星人だったかも。
ジャイアンみたいなやつだ
おじいさんや宇宙飛行士ならストレスは味方だと考えるかもしれない。生きる力を維持してくれる大事な友だ。
しかしストレスによって体を壊してしまった人からすると、ストレスは敵だ。「大事な友だ」なんてとんでもない。
ストレスは味方として歓迎すべきか、それとも敵として排除すべきだろうか?
実際のところストレスは敵でも味方でもない。重力にしても、気圧にしても、不安や怒りにしても、それ自体は敵でも味方でもない。
局面によっては生命を脅かす敵だと思えるし、また別の局面では生きる力を維持してくれる味方とも思える。
普段は敵だが、映画のときは味方に見えてくるジャイアンのような性質をもっている。
危険だが、いいやつ。
うまく付き合うことが大事だ。
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