空回腸のオステオパシー
脂肪、炭水化物、タンパク質、ビタミン ミネラル、水分の吸収。あと免疫の役割。
全長5~6メートルで2/5が空腸、3/5が回腸である。
空腸は垂直方向に、回腸は水平方向にループをつくる。
腸間膜によって包まれ、腸間膜根に付着する。
腸間膜根はADJ(十二指腸空腸曲)から回盲弁まで走行する。
1.解剖
⑴体表解剖
腹部の広範囲で上行結腸の内縁から下行結腸の上を覆う。鼠径部、恥骨結合まで広がる。空腸の開始部である十二指腸空腸曲(ADJ)はL2左横突起の位置である。
腸間膜根はL2-L5を斜めにまたぐ。L3-4の高さで上腸間膜静脈が腸間膜に侵入。L4-5で右尿管とクロスする。
⑵器官との関係
上:横行結腸間膜
前:横行結腸~大網
下:直腸、子宮、膀胱、ダグラス窩
後:後腹壁、十二指腸、腎臓、尿管、上行結腸、下行結腸
小腸ループは互いに隣接する。
⑶腸間膜と他の器官との関係
ADJ、D3、下大静脈、大動脈、大腰筋、右尿管、右精巣動静脈、右卵巣動静脈、右仙腸関節
腸間膜から虫垂間膜、虫垂卵巣間膜へ接続
⑷血管分布
上腸間膜動脈
上腸間膜動脈がきわめて広い分布域 (十二指腸下行部から左結腸曲まで) を有している。腸間膜の機能障害によって十二指腸から左結腸曲に問題を起こす可能性があるということ。また上腸間膜動脈と大動脈との間に左腎静脈、十二指腸があることにも注意。(下参照)
上腸間膜静脈
上腸間膜静脈は静脈血の流れの停滞が原因で血栓を来すことがある。
⑸神経分布
感覚:T6-9という説とT10-12という説
交感神経:T6-9という説とT10-12という説
副交感神経:迷走神経
2.鑑別
空回腸のオステオパシー治療以前に以下の鑑別が必要。
⑴クローン病
腸壁の慢性炎症。おもな症状は腹痛と下痢。
発熱、下血、腹部腫瘤、体重減少、 全身倦怠感 、貧血などの症状もしばしば現れる。
間欠性の足関節、膝関節に関節炎(非対称性)が現れることもある。
10歳代~20歳代の若年者に好発。
発症年齢は男性で20~24歳、女性で15~19歳に好発。
男性と女性の比は、約2:1。
⑵セリアック病
タンパク質のグルテンの摂取後に、腸の粘膜に炎症が生じる。
症状としては、成人では下痢、低栄養、体重減少。
小児でみられる症状としては、腹部膨満、非常に強い悪臭がする大量の便、成長不良。
欧州(特にアイルランドとイタリア)では150人に1人、米国の一部の地域ではおそらく250人に1人、アフリカ、日本、中国では極めてまれ。
⑶小腸内細菌増殖症(SIBO)
小腸内細菌が急激に増殖し、豊富な栄養を分解して多量のガスを産生する。上下部内視鏡、腹部エコー、腹部CTなどで検査しても原因不明の腹痛、便秘、下痢、腹満感を訴える人の中に、SIBO(Small Intestinal Bacterial Overgrowth)患者が存在する。ストレスが原因で発症する過敏性腸症候群(IBS)と考えられていたケースの中にも、このSIBOが数多く含まれている可能性がある。
3.オステオパシー機能障害
以下はオステオパシー治療の適応となる。
⑴癒着
子宮内膜症や腹腔内手術による瘢痕によって癒着が起きる。
腹部正面からの高エネルギー外傷は小腸後方にある脊柱、仙骨と衝突し小腸後方の微小外傷が起きる。
クローン病、虫垂炎などの炎症によって癒着が起きる。
⑵下垂
子宮内膜症、卵巣嚢胞、憩室炎、潰瘍性大腸炎など下腹部の癒着に引っ張られて下垂が起きる。
子宮摘出後に小骨盤の空間を埋めるために下垂が起きる。
出産後に小骨盤の空間を埋めるために下垂が起きる。
妊娠後に結合組織の弛緩で下垂が起きる。
⑶スパズム
交感神経の更新によって腸管の筋緊張が起きる。
⑷訴え
食後3~4時間後におへその下の引っ張られ感
きついズボンやベルトで不快
長時間立ち続けた後に腰痛
長時間立ち続けた後に息を吐きにくい
下痢
子宮後屈
子宮過前屈
頻尿
左の坐骨神経痛
右の仙腸関節痛
下肢むくみ
下腹部の膨張
4.オステオパシーの検査
⑴空回腸のモチリティ
Inspir(吸気)
反時計回りで前方に押し出してくる動き
Expir(呼気)
時計回りで後方にしずむ動き
InspirとExpirそれぞれの動きの量と質を評価する。
⑵空回腸のリスニングテスト、モビリティテスト
空回腸がどこかの組織に引かれていないか、上下左右、時計回り反時計回りの動きがフリーになっているかどうか、まずは手を受動的にしリスニングテストを行う。
次に術者の手を能動的に上下左右、時計回り反時計回りに動かしてモビリティを評価する。
⑶腸間膜のテスト
ADJ‐トライツ筋の密度テスト
ADJの緊張と動き(時計回り/反時計回り)、トライツ筋の緊張を評価する。
盲腸(回盲弁)の密度テスト
回盲弁の緊張と動き(時計回り/反時計回り)を評価する。
腸間膜根を軸とした小腸モビリティテスト
腸間膜根を挟むように左右の手をコンタクト。軽く前方へ牽引して上右と下左方向のモビリティを評価する。
リバウンドテスト
患者座位で小腸塊を上方に持ち上げ素早く落とす。この時、手の中で落ちてくるスピードと質を評価する。
5.オステオパシーテクニック
⑴腸間膜のリリース
ADJと回盲弁にコンタクトしダイレクトかインダイレクトでリリースする。
⑵下垂テクニック
患者の肺呼吸の呼気による空回腸の上方移動について行き、吸気の下方移動を妨げるように保持する。リリースまで繰り返す。
⑶腹圧調整テクニック
下垂のテクニックを行い、呼気のフェーズでは患者自身で腹横筋、ケーゲル筋(骨盤底筋/骨盤隔膜)の収縮を行ってもらう。
また正常な腹圧バランスの回復には小脳テント、シブソン筋膜、横隔膜、ケーゲル筋(骨盤底筋/骨盤隔膜)、脊柱の弯曲、肋骨、肺、胸膜、心膜などの問題にも取り組まなくてはならない。
⑷空回腸モチリティの回復テクニック
InspirとExpirと比較しより動きの多い方に追従し、最終可動域で最小限の動きを加算する。
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