【短文集】ほらふき3選
『本当のアルプスの少女ハイジ』
ヨーデルの達人ハイジ、今日もアルプスの山間で「レイヨロレイヨロ」と歌う。
すると霊峰から湧き出る大量の霊魂! どんどんハイジの体内に吸い寄せられていく!
周りに群がるヤギたちは背筋に嫌なものを感じメエメエと阿鼻叫喚!
「じ、磁場が狂ってるんだ! おんじに知らせなきゃ!」
戦慄の表情で慌てるペーター!
弾けるように立ち上がったクララに自我はない。キキキッと針のような目付きで笑って、霊峰に飛び跳ねていった。
「ハイジのやつ、自分が『霊寄ろう』『霊寄ろう』と唱えたとも知らんで……不憫じゃが、我が身が可愛くてな」と、おんじは一刻も早く山を下りようと荷物をまとめる。
しかし、アルプス中の霊魂を吸収し覚醒したハイジの目からは逃れられない! すぐにおんじを見つけて、「口笛はなぜ遠くまで聞こえるのおおおおおお!!!!!!」と咆哮するハイジ!
教えてやれ、おんじ!
終
『本当のディズニーランド』
ディズニーランド閉園後、シンデレラ城の周りを「わっしょい!!!わっしょい!!!」と掛け声を上げながら、神輿を担いで回る一部のキャストたち。神輿はミッキーマウスのロゴを模した形をしている。
「キャストの鑑だな。こりゃあ天国のウォルトさんもマーチ歌って喜んでるわ」
先輩キャストは、遠くから腕を組み感心の様子。しかし、先輩からはその真意は見えてはいない。神輿を担ぐキャストは誰もが鬼の形相で城を睨み、目は血走っている。
わっしょい、という言葉の由来は諸説ある。中でも、イスラエルのヘブライ語で「主の救いが来る」を意味するフレーズの発音が「わっしょい」に近い、という説は興味深い。その上、ヘブライ聖書内の『ジェリコの戦い』を描いた絵画では、神輿のようなものを背負っている民が描かれている。
この絵の場面には、『イスラエルの民が、この神輿のようなものを担いで、ジェリコの城塞を7日間回り続け角笛を吹いたら、巨大な石垣が崩れた』という伝説付きだ。
つまり……。
シンデレラ城の周りを神輿を担いで走り回る、1人のキャストのシャツがめくれ、『NEM』の入れ墨がチラつく。NEMのニャンまげだって、狩猟本能を持った一端の猫である。同じ関東にネズミがいるなら、獲らねばなるまい。
神輿に乗った、ミッキーマウスのロゴは、ミッキーの首を晒しているシルエットにも見える。
キャスト、いや、NEMの忍びたちは足を止めて、懐から角笛を取り出す。
ぷぉーーー。
角笛の間抜けな音色は、すぐに城からの岩雪崩の音でかき消された。
終
『本当の学校の用務員』
校舎、校庭、屋上も。学校中をピカピカに掃除しながら、いつもニコニコ生徒たちに手を振る優しい用務員のおばちゃん。
しかしそれは世を忍ぶ表の顔である。
本当の姿は、地下闘技場のチャンプ。
学校では、袖の下に30kgの重りを着けて手を振りトレーニング。ほうきの柄は鉄製で、60kgある上に発熱機能があり、180℃の鉄板を握って手の皮を厚くしている。ウィッグの装着部分は注射針になっており、24時間プロティンが注入可能。脳に直接注入するので、文字通りの脳筋。
学校のことを『ゴールドジム』、清掃のことを『ビルドアップ』と呼んでいるのがおばちゃんだけであることに、誰もまだ気付いていない。
そんなおばちゃんを、地下闘技場の奴らはいつしかこう呼び恐れるようになった。
『挑戦者の掃除屋』と。
しかし、ひとつだけおばちゃんには、いくら鍛錬しても敵わないものがあった。
それは…………………恋!
毎日校長にトキメキきゅんきゅん!!!
いつか、校長に地下闘技場でのカッコいい姿を見てもらうんだ、と夢想し頬を赤らめ清掃に勤しむおばちゃん。
今日もおばちゃんは恋を原動力に、こっそり体育館倉庫に忍び込んでは、8段の跳び箱を片手で上げ下げするのだった……!!!
終
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【罪状】決闘罪
用務員のおばちゃんが地下闘技場で決闘を行い、墓標でジェンガができる程に挑戦者を葬ってきた為。
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