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映画 マミー 和歌山毒物カレー事件

和歌山カレー事件と聞いて思い出すのは僕らの世代だと
ホースで群がる報道陣に水をかける林真澄さんの姿というのが定番だろう

1998年の事件発生当時僕は南大阪の鍼灸短期大学に通っていた。国家試験に向けた勉強をしていた頃とは言えばカッコイイが遊んでばかりいたので今も苦労しているのが現実だったりするのであの頃に戻って自分を叱りたい気分だ。
まあ、そんな遊んでいた時期に起こった事件と強烈なメディア合戦はとても面白いものだったがある日、当時遊んでいた仲間のテレビ番組の制作会社で働いているMさんがこんなことを聞いてきた。
「和歌山のニュースみてる?どう?面白い?」
もちろん僕は「毎日見てるわ、おもしろいわ。」と答えた。
彼は「そうよなあ、おもろいよなあ。お笑い番組よりも面白いわな。役者や芸人が演じるよりもあの人(林眞須美さん)見てた方が面白いんよね。悔しいわ。」その時は笑って終わったのだった。

ときは流れ裁判が進み、林眞須美さんは死刑の判決を受けた。
判決が出るころも以前のVTRがよく流されていたと思う。
そして僕は「まあ、そうやろなあ。あんなことしたし、4人も死んでるしな。」と特に疑問も持たずにニュースを聞いた。

さらにときは流れ、自分の高校時代の恩師と友人と飲んでいた時に恩師が静岡一家4人殺害事件、いわゆる袴田事件の支援をしていることを知った。
「冤罪」という言葉を身近に触れた瞬間だった。

その後冤罪というキーワードで検索することがあった。
帝銀事件、島田事件、袴田事件、名張毒ぶどう酒事件など有名な事件の支援、解説サイトがたくさんあった。

そんなサイトをめぐっているうちに、僕は一つのウェブサイトを発見した。
「林眞須美さんを支援する会」
和歌山カレー事件は冤罪です。
衝撃だった。

あの和歌山のカレー事件が冤罪?
あのホースで水を撒いていた女性のあの?
保険金詐欺とかもやってたあの?
目撃者、証拠のヒ素、スプリングエイトのあの?
いろいろな記憶がよみがえる。

しかし、支援する会のサイトを読み進めるうちに思った。
こんなにわからないことがあるのになんで死刑が確定してるんだろう?
正直、わからなくなった。
周りの人に話したこともある。
「和歌山のカレー事件て冤罪かもしれんらしいで」
帰ってくる言葉はだいたいこうだ。
「そんなわけあるかいw、ぜったいあのおばはんが犯人じゃ」
わかる。ぼくもそうだったから。でも、でも・・・
しかし、いつしかそこまで思い入れることもなく、深掘って調べ続けるでもなく・・・
ぼくのなかのモヤモヤは時間とともに薄まっていった。


僕は静岡にある良い作品を選択し上映してくれる劇場
シネギャラリー静岡の会員である
今後の上映予定の中にマミーという映画があった。
8/30~9/12まで
マミー
金網の向こうに見える青空を背景に、白抜きの文字でこう書かれていた
「母は、無実だと思う」

あれだ、和歌山毒物カレー事件だ。直感した。
観たい。
すぐに解説付きの前売りチケットを買ったが
待てなかった。
公開初日に見られる劇場を調べ、公開日の移動手段の手配をした
7月30日の深夜はポッドキャストの公開収録を聞きながら時間を待った
深夜12時過ぎ
8月3日のチケットをゲットした。
その時点では僕のほかに2つしか座席が埋まっていなかった。
こんなもんなのか?と少し拍子抜けした。

8月3日(土)公開当日
渋谷にあるイメージフォーラムの入り口には「映画マミーの当日券は全て売り切れです」の張り紙があった。

入場
当然のことながら場内はいっぱいだった。
観客が思い思いの話をしている。

13:25
予告等なしでいきなり本編から始まった。
とある漁村から映画は始まる。
映画は主に二村監督が多くの関係先に取材をしていく形式で進んでいく。
事件当日の目撃証言の違和感
物証(亜ヒ酸)の異同識別鑑定に関してのお二人の話
スプリングエイトを使用して鑑定した中井泉氏
その異同識別鑑定の結果に異を唱える河合潤氏

裁判、警察関係者、眞須美さんの故郷の人々、事件の近隣住民、同居人だったIさんなど、ほとんどの人は事件に関して何も話そうとしない。
結局は眞須美さんの長男の林浩次さん(仮名)と夫の林健司さんの話が主になり、あとはナレーションが補足するといった形だ。

ある程度予想している内容ではあったのだが、予想していなかったことがあるそれは健司さんのターンだ
健司さんの話しているときに会場に笑い声が漏れることがあった。いや、実際に僕も笑ったうちの一人だ。
健司さんのしゃべりの才能はすごい。飲み屋で出会ったら一発で惚れてしまうだろう。不思議な魅力の持ち主だ。たぶん、直接会ったのなら応援したくなってしまうと思う。

長男の浩次さんは、取材当時で事件から24年間いろいろなことがあったのだろうなあと、勝手ながら想像できる。
浩次さんは、いまだに和歌山で暮らし、健司さんと眞須美さんのサポートをしている様子が見られた。並々ならぬ勇気の表れだろうし、信じる力があることを感じる。
であっても、物が少ない部屋、酒のボトルがおかれたテーブル、それとは異質な絵本、ぬいぐるみ。
たばこを吸う姿からは精神的に疲弊していることもうかがえる。
長い間多くの事象にさらされて、心がむき出しになってしまっているような雰囲気のように思えた。

彼が自分を取り戻せる日はくるだろうか。

最後に、上映後に監督の二村氏が自身が取材対象者に対して不法侵入をして警察に事情聴取されるに至ったことをとらえて言った。
「当時のマスコミの姿勢などを俯瞰してみて、批判的にとらえていたにもかかわらず気が付いたら自分ものめりこんで自分自身の思いをのせた取材を行ってしまっていた。そこも含めて伝えたかった。」という言葉にはうなずくしかなかった。

作品の中では俯瞰して見ることを象徴するようにドローンを使用した画が多用されているのが印象的だった。

この映画をみて、今一度カレー毒物事件に対して冤罪を訴えている人がいる事はもっと多くの人に知ってほしいと思った。
とにもかくにも、前売り券まで買ってみた映画で期待通りに面白かったので大変満足している。今後、今までよりも少し林眞須美さんのことを気にかけてみたいと思う。

ちなみに前売り券はまだ手元にある。


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