見出し画像

靖国史観と現代

小島毅(2014年)靖国史観 ちくま学芸文庫

いつから日本礼賛ブームがやってきたのでしょうか。皆さんは疑問に感じることはないでしょうか。
「日本はほんとうに素晴らしい国なんです!」
日本に来ている海外の方にインタビューすると明らかに番組のスタッフと打ち合わせしたかのような、非の打ち所がないコメントが返ってきます。
確かに日本にわざわざ旅行しにくるのだから、日本が好きなのは当たり前のことなのかもしれません。
ですが、親日家というのはどのような経緯で親日を自称するようになったのでしょうか。疑問が残ります。やはり歴史でしょうか?

そんな親日家とはまた別に日本を毛嫌いする反日家がいることも忘れてはいけません。
しかし、日本人は反日の意見を聞き入れることはなく、親日家の意見に耳を傾けがちです。
かく言う私も大学生のとき「日本人が英語を話せないのは日本語が世界で一番難しい言語だからだ!日本ってすごい!」と意味不明なことを友だちに豪語したりしていました。
恥ずかしい…

「南京大虐殺はなかった!」
「朝鮮は清に虐げられていて、仕方なく日本が統治してあげたんだ!」
このような過激なことを言っているのは歴史学者の竹田恒泰です。これにはあまりにも過激過ぎて私も驚きました。
都合の良い意見ばかり汲み取っていたら、真実は出てきません。対立する双方の意見を聞いたうえで、正確な情報を得ることができるのではないでしょうか。

近年の日本礼賛ブームは、反対する意見を無視し、「日本人は素晴らしいんだ!」と開き直ります。現代の歴史観はどのように成立したのでしょうか。
その謎に迫るのが今回ご紹介する「靖国史観」に書かれてあります。著者は東京大学で儒教、東アジアの宗教を教えている思想家です。
それではこの本の紹介をしていきます。

1.なぜ日本の首相が靖国に行くことが問題なのか?
「知事は靖国神社に公人として行きますか?それもと私人として行きますか?」
「はい、どちらもです!」
勢いよく答えたのは故・石原慎太郎元と記者とのやり取りです。
10年ほど前の記者会見ですが、今でもYoutubeで石原の動画は出回っています。
石原がいかにネット上で人気なのかが分かりますね。しかし、その一方で過激な発言で世論から批判されることも少なくありませんでした。明らかに差別と見られる発言も多く、賛否が分かれる政治家でもありました。外交では中国だけではなくアメリカに対しても強気でした。戦後の日本の首相に親米保守が多いことを考えると、明らかに石原は政治家として異端です。
政治家によって靖国惨敗についてはスタンスが異なりますが、石原は靖国参拝に賛成でした。
次に歴代の首相ですが、安倍晋三は2013年に1度だけ参拝していますが、その際にアメリカに批判されてしまいました。
同じく与党である公明党の山口那津男は「参拝で引き起こす問題は首相が責任を取るべき」と怒り心頭でした。
首相が公式に靖国参拝したのは安倍晋三が最後です。首相たちはかなり慎重になっています。

ではなぜアメリカや中国が首相の靖国参拝を危惧するのでしょうか?
それはこの施設に「A級戦犯」が祀られているからです。
A級戦犯とは太平洋戦争で日本が敗北した際に東京裁判で死刑となった戦争犯罪人のことです。
つまり、首相という公式の立場で靖国を参拝するという行為が、他国を脅かした過去の大日本帝国を肯定するのでは?と憶測が広がりこのような問題へと発展しているのです。

これについて著書は靖国参拝については“靖国問題は国内問題である”と主張します。
それから“私は靖国問題とはすぐれて国内的な問題だと考えている。このことがどこまできちんと認識されているのか心許ないが、靖国神社は「日本国のために心ならずも戦場で散った人たちを追悼する施設」ではない。あくまでも「天皇のためにみずから進んで死んでいった戦士を顕彰する施設」なのである。ここには「朝敵」は祭られないので、戊辰戦争や西南戦争の「賊軍」側の戦死者は対象にならないのだ。「英霊」とは「官軍」の従軍者にかぎられるのである”と述べています。

まさに歴史は勝者が作るものであり、敗れた者は何も言えません。
日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦と勝利を続けた日本はもう調子に乗りまくっていました。
そうして第二次世界大戦で敗れ、世界中の悪者となってしまい、国民も戦争は誤りだったと自虐的に捉えるようになりました。自虐史観というやつです。
ここで大事なのは第二次世界大戦中の日本国民の熱気は異常なまでに高かったということです。「完膚なきまでにアメリカを叩きのめす!」と戦争を推進していたことです。
石原慎太郎のように戦争を体験している人からすると、この靖国で騒ぐ諸外国が不思議で仕方ないのかもしれません。
ですが、「オマエは首相が靖国行くことについて賛成派の保守なんだよな!?」という極端な発言はくれぐれもしないでください。

2.勝てば官軍、負ければ賊軍
先ほどまでは靖国神社参拝問題についてみてきましたが、ここからは「歴史を作る者」というテーマで話を進めていきます。
著者は「官軍」と「賊軍」を比較し、靖国の英霊たちは「官軍」であると説きます。
この官軍とは天皇の名のもとに戦った陥没者や天皇のために政治を行ったものと定義されます。

少し話が脱線してしまいますが、どうしてそこまで、天皇のために日本人は命を懸けたのでしょうか?
こればかりはすぐさま答えることができません。人によって意見も変わってくるでしょうが、日本の長い歴史の中でこれまで一つの王朝が長く続いていることが物語っているのかもしれないですね。
三島由紀夫は、なぜ日本で革命が起きないのか?というテーマについて「天皇がいるからかもしれないが、こればかりはわからんのですね」と語った。あくまでも内省的な革命とつけられていましたが、明治維新もペリーがやってきて起こった出来事です。

「勝てば官軍、負ければ賊軍」とは歴史は勝者が作ってきた経緯があり、都合よく歴史を変えてしまう危険性が含まれてしまうのです。
靖国神社に入ると大村益次郎の立派な像が出迎えてくれます。大村は長州藩士であり戊辰戦争の勝利の立役者でもあります。つまり政権を朝廷に返すことに尽力した人物なのです。朝廷に逆らった者や江戸幕府側の新選組は靖国に祀られていません。それは賊軍だからです。以上のことからA級戦犯はお国=天皇のために戦ったので英霊なのです。

何度も言いますが、靖国問題は国内の問題であって、海外は関係ありません。
首相が靖国に参拝すると、「またあの恐怖の戦争の記憶が蘇ってしまう!」といった諸外国の意見は気にするべきではないのです。
私は首相として靖国参拝した安倍は評価できま。それ以外はダメです。もうほんとにダメダメです。
2013年以降も首相として行けばよかったのに、アメリカを警戒しているのが、ほんとにダメです。
親米保守の鏡と言えるでしょう。

靖国観を語るうえで、日本は多神教で様々なものを信仰します。
伊勢神宮には天照大御神、豊受大御神。明治神宮は明治天皇と昭憲皇太后を御祭神。太宰府天満宮には菅原道真。
歴史的背景から見ても靖国神社を作ったのは日本のために戦った英霊たちを祀っているのは日本人としての良心だったのでしょう。

3.イスラム国のヒントは明治維新
それでは最後の章になります。
「イスラム国はテロリスト集団じゃないか!明治維新の志士たちは英雄だ!」
こういったことをおっしゃる方がいるかもしれませんが、話を進めていきましょう。

明治維新の起こった江戸時代を振り返ります。
徳川幕府は日本の歴史の中でも安寧秩序が保たれた平和な時代でした。
百姓一揆が起こる時もありましたが、幕府によって鎮圧されることがほとんどで、また平和な日々に戻るのです。
また鎖国政策を行っており、外交はが許された国は明や朝鮮、オランダのみでした。日本人は海外の国の人たちに比べ、おとなしい性格であると言われるのはこのような時代背景が少なからず影響しているはずです。
閉ざされた世界の中で日本は、様々な文化を発展させます。それは浮世絵、歌舞伎、相撲、落語などです。現在でも楽しむことが出来るものです。
そんな独自の文化を発展させてきた日本ですが、転機が訪れます。
ペリーの黒船来航です。

今まで幾度となく外国からの脅威を逃れてきた日本ですが、今回は訳が違いました。
当時の日本人は米国人のペリーとあっさり日米和親条約を結んでしまうのです。しかも、日本側が不利とされる条約をあっさりと許諾してしまった江戸政府。これにより国民の怒りが爆発し、日本全国で百姓一揆が起こります。ここから皆さんも一度は名前を聞いたことがある歴史上の偉人たちが大集結します。まさに幕末アベンジャーズです。

尊王攘夷論のもと、明治維新という革命が起こり、日本は西洋化していきました。
西洋文化は必ずしも正しくはありませんが、大きな力を誇っています。世界を動かしているのは米国を中心としたヨーロッパの国々です。
必ずしも西洋の文化が正しいわけではありません。常に疑いをもっていかねばなりません。

ネットの発展によって右や左とすぐさま決めつけ物事の判断能力が鈍っている人を良く見かけます。答えを早く知りたい!じゃないと耐えられない!簡潔に質問して話長いよ!といった風に集中力が欠如している人たちです。まあ私もそこまで集中力に自身はないのですが、これは危険な状況です。何故結論ばかり急ぐのか?おそらく自己啓発書に感化されている人たちから結論からはなせ!と教わっているからでしょう。でも物事はそこまで簡単なことではないのです。歴史を振り返る時に他者批判に陥るのではなく、自己を見つけなくてはなりませんね。
自己啓発書から学ぶべきところも意外とあったりするもので、過去にどっかの出版社の編集者が「死ぬこと以外かすり傷!」とかいうくだらない本出したじゃないですか。読んだことないのでわかりませんが、たかが知れてるじゃないですか。かすり傷じゃなかったんだっけ?個人的な意見ですがあまり表立って出てk…
今回はここまでにします。

小島毅(2014年)靖国史観 ちくま学芸文庫 
https://www.amazon.co.jp/増補-靖国史観-日本思想を読みなおす-ちくま学芸文庫-小島/dp/4480096272

いいなと思ったら応援しよう!