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肉に溺れる

深久茂は、デブの女の肉に埋もれていた。

湿気と汗の臭いが、古びたラブホテルの部屋に充満している。エアコンはとうの昔に壊れていて、ぬるい風がカーテンをだらしなく揺らす。ベッドのスプリングがぎしぎしと悲鳴を上げるたびに、天井の黄ばんだシャンデリアがかすかに震えた。

女の肉は、まるで生きた塊だった。溢れた脂肪が震え、汗の膜がぬるりと光る。膨れた二の腕は丸太のようで、深久茂の身体を押し潰すほどの重量を持っていた。

「ハァ、ハァ、みくもぉ……」

女がねっとりと名を呼ぶ。口の端には、涎が光っていた。

深久茂は唇を噛んだ。頭の奥が焼けるように熱く、目の前が歪む。ビールと煙草の匂いに混じって、女の体臭が鼻をつく。湿った皮膚の間に閉じ込められ、逃げ場はない。

ベッドの上で、肉が肉を喰らうように絡み合う。

女は深久茂の肩に歯を立てた。深久茂は舌打ちしながら、それを振り払う。

「……噛むんじゃねぇよ」

女のたるんだ腹が波打つたびに、汗が飛び散る。

深久茂は、やっと女の顔をまともに見た。

欲望が渦巻く口元。絡みつく指。夜の闇に決して溶けない濁った瞳、その黒い部分が大きくなり、女は喚き出す。

「オラァ、逃げんなよ。もっとちゃんと動け……男なんだろ?」

女が口角を吊り上げながら、深久茂の顎を掴んだ。ふやけた爪が妙な音を立てる。

「クソがっ……」

深久茂は舌打ちしながら、腰を打ちつけるスピードを増してゆく。

食い込む内腿の脂肪。
重たい肉が揺れる。
ベッドが悲鳴を上げる。

「ん、んぅ……あ……っ、や……っ」

女の嬌声は甘ったるく、瞼が痙攣していた。背中に染みついた汗がじっとりと広がる。

「……っ、さっきまでの威勢はどこだよ。もっと素直に、く……っ鳴けば?」

「馬鹿……だってぇ……みくもぉ……きもちいいんだもん……ぅ、んぁ……っあ……!」

「……いい声出すじゃん」

汗と唾液と、何かもっと粘ついた液体が混じり合い、部屋の中は獣臭く蒸れていた。

深久茂は歯を食いしばりながら、目を閉じた。

この瞬間だけは、何も考えずに済む。

この獣のような肉の熱に飲み込まれれば、すべてがどうでもよくなる。

けれど、今日はもう負けていた。肉の波に、完全に飲まれていた。満足そうに息を詰まらせる女は、四六時中交尾をする獣そのものだった。

深久茂はベッドに沈み込んでいた。

汗でべたつく肌に、女の太い指が這う。粘ついた唇が深久茂の耳元を這いずり、ねっとりと囁いた。

「……もう終わり?」

深久茂は返事をしなかった。というより、できなかった。

女の巨大な肉体に蹂躙され、息も絶え絶えだった。背中に貼りついたシーツが冷たく、湿っている。焦点が合わない。脳みその奥が痺れる。全身の力を吸い取られたように、動く気力がない。

女は嗤った。

「相変わらず、可愛い顔ね」

指先が喉をなぞる。噛みつくような口づけが首筋に落ちる。

深久茂はもう、抵抗する気すらなかった。

「深久茂くん、アンタさ……私のこと、好き?」

女が耳元で囁く。息が生温い。

「……クソが」

深久茂はかすれた声で呟いた。

女はくたくたの深久茂を見下ろしながら、満足そうに、腹の底から嗤った。


♦︎♦︎♦︎
ぶっちゃけ二面性のある人間の方が信用できるって訳よ。結局その人自身がバランス取ってんだからさ。その時見たそれが正解でいーんだと思う。




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北村らすく
ハマショーの『MONEY』がすきです。