不運な男と見守る人たち
世界が終わる音がした。
僕は三塁ベースとホームベースのちょうど中間地点に横たわっていた。
青い球体から振り落とされたような衝撃が走り、ジクジクという痛みが遅れてやって来た。全く動けなかった。
ストレッチャーが迎えにやって来る。
僕の意識は朦朧としていた。
女は世界が途切れる音を聞いた。
男が物理的にも精神的にも倒れる姿を、女はこれまで幾度となく見てきた。
その度に這い上がる姿もまた同じだけ見ていた。
しかし今日ばかりは、はっきりと世界が途切れる音を聞いてしまった。もうこれまでかもしれないと女は落胆した。
老人は世界が裂ける音を聞いた。
うち一つは地球にとどまり、もう一つは遥か彼方宇宙へと吸い込まれていった。
揺らめく宇宙側に男が乗ってしまったと老人は嘆き、悲しんだ。
少年は何も聞こえなかった。
いや、実を言うと少年の軟弱な左耳は、幻聴かもしれぬ音を微かに聞き取っていた。世界が廃れた先、ふたたび上がった産声である。
少年はそれが幻聴でないことを祈った。
観客の中でただ一人、少年だけが不運な男の立ち上がりを信じていた。
ストレッチャーに乗るため身を翻した僕の上唇を、汗と涙の入り混じった不味い液体が滑り落ちた。薄れゆく意識の中、形の定まらない眩い光が近づいて来た。
チームメイトでもない。監督でもない。コーチでもない。精霊のようである。
観客のどよめきと歓声と指笛の間を搔い潜って届いたそれは、僕の魂を掬い上げて撫でた。心地よかった。
「おい、笑ってんじゃねえぞ。お前のせいで今日の試合はパアだ」
野次などどうでもよかった。
僕は精霊が幻覚でないことを信じていた。
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