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限定王権戦記「霹靂と閃電」

著:鈴木鈴

 ふと気がつけば敵がいなくなっていた。
 周囲の有様は、まさしく死屍累々。折り重なる死体のほとんどは、黒服――《煉獄舎》クランズマンたちのものだ。情報部からの連絡を受け、善条剛毅率いる突入部隊がこの倉庫を急襲したのが15分前。そして今現在、倉庫内は凄惨な戦場と化していた。
 善条は血にまみれた『霹靂』を肩に担いだまま、次に斬り伏せる敵を探しはじめた。
 が、すでにそんなものは存在していなかった。
 戦闘は終わり、残党狩りに移行しつつあった。まだ何人か抵抗している黒服がいるが、彼らが鎮圧――もしくは殲滅――されるのも時間の問題だろう。そう思っているあいだにも、馬堂の鉄槍が黒服のひとりを刺し貫き、吾妻の双剣が別のひとりを刻んでいく。すでにまともな戦闘能力を有している《煉獄舎》クランズマンは、どこにも残っていないようだ。
「なんだ、つまらん」
 不服そうに鼻を鳴らし、『霹靂』を地面に下ろして――
 次の瞬間、積まれていた屍の山が爆裂した。
「善条ォッ!!」
 全身の刀傷から鮮血を、両足からは炎を噴き上げて、その黒服は善条に肉薄する。仲間の死体を隠れ蓑にした、必殺の奇襲――それを理解するよりはるかに早く、善条は持ち前の超反応によって『霹靂』を振り抜こうとした。
 できなかった。
 あとで調査したところによれば、それは黒服たちの意図せぬ連携であったのだという。善条の背後に倒れ伏していた黒服のひとりは、瀕死だがまだ息があった。最後の力を振り絞って、そいつは『霹靂』の刀身を、己の指が落ちるのも構わず握りしめたのだ。
 それが、コンマ数秒の遅れを生んだ。善条は固定された『霹靂』の柄を握ったまま、眼前に迫る炎のつま先をただ見つめていた。
 しかし――それは善条の、ほんの鼻先をかすめるだけに留まった。
「がっ、かかっ……!」
 善条を襲った黒服は、空中で制止していた。血走った目を見開き、ぱくぱくと開閉する口の端から血があふれ出す。その胸からは細身のサーベルが突き出ている――斜め下から胸を刺し貫いたサーベルが、黒服に急制動をかけたのだ。
「あーっ!」
 場に似つかわしくない陽気な声が、黒服の背後から響いた。
「すいません間違えました! 善条さん、首、お願いできますか?」
 そこのリモコンを取ってほしい、とでも言うような気軽さだった。善条はまばたきをしてから、『霹靂』を振り抜いて黒服の首を刎ねた。
 両足にまとわりついていた炎が、ふっと消えた。
 首を失った黒服の身体が、地面の上に投げ出される。その向こうに立っていた青年が、細身のサーベルを振って血をぬぐった。人なつっこい顔つきは、どこか笑う犬を思い起こさせる。
「いやー、間違っちゃいました。突いたら首刎ねられないですよねえ、あははは」
「久瀬。助かった」
 青年――久瀬は、明るく笑って手を振った。
「余計なことしちゃいましたかね。善条さんなら、余裕で対応できたでしょうし」
「いや、今のは反応できなかった。頭から上がなくなっていたか、よくて『鼻なし』になっていただろう」
「え、そうですか? そりゃよかったです。もうすぐ新そばの季節ですからね!」
 とぼけたことを言う久瀬の肩を叩いて、善条はにやりと笑う。
「今の季節のそばもなかなかだぞ。屯所に帰ったら奢ってやる。助けてもらった礼だ」
「あ、それじゃ、そばよりも――」
「なんだ? また手合わせをしてくれとでも言うつもりか?」
 久瀬はにこにこしている。善条は呆れたようにその笑顔を見た。明るい外見に似合わず、この青年はなかなかにしつこい性分の持ち主なのだ。
「ま、帰ったらな」
「おっしゃ! ありがとうございます!」
 ガッツポーズする久瀬に、善条は肩をすくめ、残務処理を始めた突入部隊の群れへと歩いて行った。

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K Fan ClanおよびK Fan Clan Nextの小説等コンテンツを再掲したものです。

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