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赤の事件簿 HOMRA in Las Vegas 04

第4話「トラブル・イン・ラスベガス」


著:鈴木鈴

 マルーンホテルの雇われディーラー、ダニー・バックマンは最初、その2人の関係がよくわからなかった。
 ダニーの目の前にいるのは、赤髪の青年と白髪の少女だった。青年のほうはつまらなそうに回転するルーレットを眺め、少女は目を輝かせてボールが落ちる瞬間を待ちわびている。親子のようにも兄妹のようにも見えるが、子どもの方が熱心に食いついているというのはあまり見ない光景だった。
「ミコト」
 少女が声をあげると、ミコトと呼ばれた青年は大儀そうに彼女を見返し、
「やりてえのか、アンナ」
 アンナはこくりとうなずき、ミコトは無造作にチップをアンナに渡した。そのやりとりに、日本人ジャパニーズか、とダニーは当たりをつける。
『ベットを始めてください』
 ダニーの宣告と共に、客は思い思いにベットを始める。アンナはもらったチップを握りしめ、真剣にベッティングエリアを見つめている。
『スピニング・アップ』
 再びダニーが告げると、ルーレットが回転を始めた。
 厳密に言えば、子どもがギャンブルをするのはベガスであっても違法である。が、これくらいのお遊びにいちいち目くじらを立てていたのではエンターテイメントは成り立たない。ダニーはそれを黙認し――ルーレットが回る前から黒にチップを置いたアンナを微笑ましく思いながら、ボールをルーレットに投げ入れた。
 祈るように手を組むアンナの目の前で、ボールはくるくると盤を巡り――
 ダニーの狙い通り、黒のポケットに落ちた。
「!」
 ぱっと表情を輝かせ、アンナは伸び上がるようにしてルーレットをのぞき込む。それから隣にいるミコトに目を向け、
「ミコト。当たった!」
「ん? ……ああ、そうだな」
 気のなさそうなミコトの返事にも、アンナは気を悪くした素振りも見せない。これがこの2人の関係なのだろう、と推察しながら、ダニーは増えたチップをアンナに戻し、ウィンクをした。
『おめでとう、お嬢さん』
 英語で話しかけられ、アンナはびっくりしたように目を瞬かせた。それから、少女らしくはにかみ、
「……ありがとう」
 ダニーはにっこり笑う。
 とはいえ、サービスはここまでだ。雇われディーラーとして、次からはきちりと仕事をする。狙ったポケットにボールを入れるのがディーラーの役目であり、ディーラーがどのポケットに入れるつもりなのかを推測するのがルーレットの醍醐味だ。日本人のお嬢さんがそこにたどり着くまでは、まだ長い年月が必要だろう。
『ベットを始めてください』
 ダニーは笑みを浮かべたまま、再び宣告した。

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