著:来楽零
こんな夢を見た。
御柱タワーから奪ってきた石盤の力がついに解放され、流が望んでいた世界が実現した。万人が力を持つニューステージだ。
さて流が夢見た世界というのはどんなものだろうと、スクナは愛用の鎌を肩に担いで外に出かけた。
薄暗い秘密基地から抜け穴を通って出てみた地上は、結構な騒ぎになっていた。
みんな、突然得た力に戸惑い、慌てている。制御が下手くそな奴は力を暴走させ、泣きべそをかいていた。
奴らはまだ、流が作ったこの力ある世界では赤ん坊みたいなもんだからしょうがねえな、とスクナは思った。生まれたての赤ん坊が自分の体の動かし方をわかっていないように、力を得たばかりの連中はその力の扱いが理解できないでいる。だがそれも少しの間のことだ。やがて赤ん坊は立ち上がり、言葉を話し、ものを考えて動くようになっていく。連中も、そのうち自分の力の扱いを覚えてこの世界を生き抜いていくようになるんだろう。生き抜けない奴は死ぬだけだ。それが、流がこの世界の上に作り上げた新しいゲームだ。
歩いていくと、とある狭い公園に出た。遊具は一つもない、ベンチと水飲み場があるだけの、ただの小さなスペースだった。
そこに一人の少年が立っていた。
彼の姿を見て、スクナは軽く目を見開いた。それは、かつてのスクナの親友だった。
「スクナ」
彼ははにかむような顔で笑った。
彼は、スクナが流と出会う前の、初めて心を許した親友だった。だけど、スクナと彼は決別した。あの頃、スクナも彼も、自分ではない別のものに支配されていた。支配され、意思を殺し、自分の可能性を捨てて生きていた。
スクナはそこから逃げ、彼は逃げられなかった。二人の道は分かたれた。
「スクナ、これ、お前がやったのか?」
彼の体から緑の光があふれ、自由に、奔放に、うねっていた。
「すごいなぁ、スクナ」
緑の光を放つ彼が、顔いっぱいで笑った。その笑顔を見て、スクナは彼がもう他人の支配の下にはいないことを知った。
当たり前だ。流が作り出す世界は、すべての人間が《王》になる世界だ。そこでは皆が対等だ。誰に支配されることもなく、自分の力で自分の可能性を広げていく世界なのだ。
スクナは顔をくしゃくしゃにして笑い、言った。
「お前の《王》はお前だけなんだぜ、彦太郎」
腹の底からむずむずするような力が湧き上がってきて、スクナは衝動のままに地を蹴った。
一蹴りでビルの屋上まで跳び上がって、そのまま屋上から屋上へ、ほとんど空を飛ぶようにして駆けていく。
頬に当たる風が気持ち良かった。心が解放され、スクナは笑いながら自由な一匹のケモノになって飛び回った。
気持ちのいい汗を流し、見える範囲で一番高いビルの屋上に上って、スクナは両腕を広げた。
隣に、誰かが立つ気配がした。黒い服を風にたなびかせた流だった。
薄暗い地下に潜み、車椅子の上で拘束着で身を縛られている姿ばかりを見てきたスクナにとって、青空の下、自分の足でしっかりと立つ流の姿は新鮮に映った。
「流。俺、お前の夢を一緒に見られて、よかったよ」
風に髪やコートをはためかせながら、スクナは目を細めて言った。体からは力がまだまだ湧いてきて、発散させたくてたまらない気持ちになっていた。
「もう俺も、《王》だ」
「肯定です」
「流と、対等な《王》なんだ」
「はい」
流は笑っていた。スクナも笑った。今の状態で流と競い合ったらさぞ楽しいだろうなと思って、スクナは持っていた鎌をくるくると回し、構えた。
「流。俺とひとゲームやろうぜ」
「いいですね。対戦です」
流の体から、緑の電流がバチバチと格好良く放出される。スクナも負けじと、緑に輝く鎌の刃の出力を強め、心躍るゲームに身を投じた。
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KFC/KFCNサルベージ
K Fan ClanおよびK Fan Clan Nextの小説等コンテンツを再掲したものです。
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