著:来楽零
「新入隊員を入れる?」
《セプター4》屯所の室長執務室で、淡島と並んで宗像の話を聞いた伏見は思い切り眉を寄せた。
「何言ってるんすか。室長、もうインスタレーションできないでしょう」
今年の一月末、七王を選び力を与えるドレスデン石盤は《jungle》との戦いの末破壊された。その結果、《王》たちはその力の象徴たるダモクレスの剣を失い、力の多くを失った。《王》だけが持っていた力――自らの異能を他者に分け与え、自らのクランズマンとするインスタレーションを行う力も、もうない。
「その通りです。私はいまだ《青の王》を名乗ってはいますが、これ以上クランズマンを増やすことはできません」
「だったらなんで。後方支援なら警察を使ってなんとかすればいい」
「室長、私も疑問です。確かに、一月の一件で世界中の人間が一時的に異能者となって、いまだ力を残存させている者たちも多く、異能関連事件が去年までより格段に増えているのは事実です。ですが、人員が必要だからといって一般人を《セプター4》の隊員として採用してしまうのはあまりに危険です。伏見の言う通り警察との連携を強化して――」
「一般人、というわけではありませんよ」
淡島の言葉を柔らかく遮り、宗像が言った。伏見と淡島は、そろって目を見開く。
宗像は執務机から立ち上がり、窓辺に歩み寄った。明るい春の光に満ちた外の世界に視線を向ける。
「淡島君の言う通り、一月の一件で世の中のストレインは大幅に増加しました。黄金のクランの情報統制によって長らく秘されていた異能の存在は白日の下となり、異能事件は人々にとって身近なものとなった。しかし、残存した異能者、ストレインは皆事件の火種であるのか? 答えは否です。自らに芽生えた尋常ならざる力を制御し、正しく社会の一員でいるための秩序を欲している者たちも多く存在します。……彼らに大義の剣を渡すことは、我々の力となり、秩序ある社会の形成の一助になると思いませんか?」
伏見は目を剥いた。
「つまり、ストレインを《セプター4》の隊員として入れようってことですか」
ストレインにインスタレーションをしてクランズマンとするのはままあることだ。赤のクランの櫛名アンナや、白銀のクランのネコこと雨乃雅日が良い例だ。
が、インスタレーションをしない――できないままストレインを受け入れるとなると、話は全く違ってくる。
淡島も戸惑いの声を上げた。
「戦闘能力のあるストレインならば、物理的には隊員として働くことは可能でしょう。し、しかし、それは室長の青の力に属さない者を《セプター4》隊員と……宗像礼司のクランズマンと呼ぶことになります。クランの定義が崩壊します」
「崩壊していいのですよ」
あくまで穏やかに宗像は答えた。
「私の頭上には、もはやダモクレスの剣はない。すでに《王》としての定義は崩壊しています。《セプター4》の責務は増えているというのに、《セプター4》という組織の裏打ちは失われつつある。我々は変わらなければならないのです」
淡島が小さく息を呑み、それから自分の中の何かを切り替えるように表情を引き締め、居ずまいを正した。
「……室長の青を身に宿さずとも、室長の大義を心に宿す者を青のクランズマンと呼ぶ。《セプター4》はそういう組織に変わる、と」
淡島の言葉に宗像は深く頷く。
「その通りです。新たに迎え入れる隊員は、決して《セプター4》の異分子ではない。我々の青は一点の曇りも有さないと、私はそう考えます」
「了解しました」
淡島は背筋を伸ばし敬礼した。宗像の視線が、黙ったままの伏見の方に向く。
「……わかりましたよ。まあ、もともと、俺は人のことを異分子だとか言える立場でもないんで」
伏見の返答に、宗像はふっと息で笑った。
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KFC/KFCNサルベージ
K Fan ClanおよびK Fan Clan Nextの小説等コンテンツを再掲したものです。
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