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風雲! 礼司城

著:鈴木鈴
リクエスト:アイドルK《プロモーション・セプター4》の番組『秒読み解散、疾夢隊』で高視聴率だった回

 ロケバスの中には、重苦しい沈黙が立ちこめていた。
 車内にいるのは、《プロモーション・セプター4》の人気ユニット、《疾夢隊》の面々だ。ライブのときには華やかに照らし出される彼らの表情は、しかし一様に暗く沈んでいた。あるものは目を閉じ、あるものは天井を見上げ、あるものは足下を見つめている。さながら、戦闘直前の兵員輸送車のような雰囲気だ。
 ふと、《疾夢隊》のひとり――榎本竜哉が、耐えきれなくなったかのように顔を上げた。小さな声で、ぼそりとつぶやく。
「これ、『秒読み』だよね」
「…………」
 そのつぶやきに、答えるものはいない。無視しているわけではなく、現実を直視したくないからだ。
『秒読み解散、《疾夢隊》』――《プロモーション・セプター4》最大の冠番組にして、今や国民的な人気を誇るバラエティだ。青の《アイドルキング》宗像礼司からの無茶ぶりに、四苦八苦しながらも応える《疾夢隊》の姿は、性別や世代を問わず幅広い人気を博している。
 が、やらされるほうにしてみれば、たまったものではない。
 人気があるのはありがたい限りだが、企画によっては南米に飛ばされたり北極に飛ばされたり、上空2000メートルからスカイダイブさせられることもある。命の危機を感じたことは1度や2度ではなく、それゆえに《疾夢隊》の面々は、『秒読み』の収録をなによりも恐れているのだった。
 タチの悪いことに、『秒読み』の収録は前もって告知されることがない。あるとき突然招集をかけられて、そのままロケバスに詰め込まれ、収録地まで輸送されるのが常だった――ちょうど、今のように。
 眉間にシワを寄せつつ、加茂が言う。
「今度は、せめて国内で済めばいいのだが」
「加茂、前はアマゾン川まで行かされたんだっけ? 巨大ナマズで刺身を作るとかなんとかで」
「俺は廃鉱山を探検したぞ。有毒ガスがあちこちに溜まってて、危うく吸い込むところだった」
「よく生きて帰ってこられたな……」
「無人島でサバイバルとかだったらいいんだけどねェ。あれ、後半は結構生活が安定してたし」
「わからんぞ。今度は砂漠でサバイバルしろって言われるかもしれん」
 一同は口々に次の企画を予想するが、この会話に意味がないことは全員が理解していた。単に不安を紛らわせるために話しているだけで、青の《アイドルキング》が突きつけてくる無茶ぶりは、常に自分たちの予想を超えていくのだ。
 やがて、ロケバスが止まった。
 同時に《疾夢隊》の会話も止まる。秋山がまず立ち上がり、それに弁財が続いた。ぞろぞろとロケバスを降りていく彼らの姿は、アイドルユニットというよりは死刑囚の群れであった。

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K Fan ClanおよびK Fan Clan Nextの小説等コンテンツを再掲したものです。

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