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K One Year Later 07

第七回、『思い出の夜』


著:宮沢龍生

 あれから一年経って――。

 八田美咲が現在、働いているスポーツショップは大きなテナントや商業施設に入っている類いではなく、商店街の一角に二階建ての店舗を構えた、昔ながらの地域密着型のものだった。
 店長は元プロ野球選手で、引退してから実家の家業だったスポーツショップを引き継いだ。必然的に野球に関しての道具類がもっとも充実しているが、それ以外のスポーツ用品も一通り置いてある。
 また八田がスケートボードの競技会に出場するため、時々、休みを取ることも快く容認し、積極的にその活動を応援してくれていた。
 非常に理解のある職場で、今までバイトなどは比較的、コロコロと変わっていた八田も結構、本腰を入れて働いている。
 朝10時から夕方まで勤め上げ、退勤した八田はなんとなく小腹が減ったので近くの惣菜屋でメンチカツを頼み、それを囓りながら商店街をぶらぶらしてみた。
 鎮目町にあるこの銀色商店街は今時珍しい純喫茶や五十年前から営業している古本屋、気っぷの良い大将が経営してる魚屋など昔ながらの店構えが連なっている。
 その中で八田は気になる店を見つけた。レトロな色合いのネオンの看板に『レトロショップ』と記された玩具屋だった。
ショーウインドウを覗いてみるとレトロ、というだけあって二十年くらい前に放映されたアニメの超合金や今はとっくに製造が中止されたボードゲームなどが並んでいる。
 八田は気になって店の中に入ってみた。
 ガラスで覆われた棚が間仕切りになって狭い通路をそれぞれ形成している。そしてその棚には怪獣のフィギュアやら潜水艦のプラモデルやらなんのキャラクターだが皆目見当がつかないソフビの人形やらが所狭しと、それでいて整然と並べられていた。
 正直なところ若い八田には対象外な古物ばかりで懐かしさを感じるようなことは全くない。
 しかし、〝へえ、こんなのあるんだ〟くらいの気持ちで見ていた八田がふと足を止めて、
「おお!」
 目を輝かせた。
 彼の視線の先にはかつて一世を風靡したコンピューターゲームのハードと幾つかのソフトがあった。これらは八田の鼓動を妖しく高めた。
「やば。なつかし」
 思わず口走っている。正確なことを言えばこれらのゲーム機がもっとも売れていたのは八田の両親世代が子供だった頃だ。
 だが、八田にはこのゲーム機に格別の思い入れがあった。吠舞羅に入りたての頃、当時としてもレトロのジャンルに入っていたこれらのゲームを入手し、幾晩も徹夜するくらいハマったのだ。
 そしてその愚行に文句を言いながらも付き合ってくれた親友の存在。
 八田にとっては心躍る日々だった。
 気がつけば彼はカウンターで暇そうにしていた髭面の店長に向かって声をかけていた。
「あの、これ、全部、買うといくらになります?」

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