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K One Year Later 03

第三回『草薙出雲の禁煙と吠舞羅の日々』

著:宮沢龍生

 あれから一年経って――。

 タバコを止めようと思ったきっかけは色々あったと思う。
 喫煙者なら常に感じている社会的な肩身の狭さ。健康へのリスクが記された記事やニュース。ほんのわずかだが年々、値上がりしていく価格。ヘビースモーカーだったバーの常連さんたちが、
〝最近、子供が生まれてさ〟
 とか、
〝カミサンがうるさくて〟
 などと言い、次々と喫煙者というカテゴリーから離脱していくのを見て一抹の寂しさを感じたこと。
 それらの要因が様々に重なり合ってはいたのだ。
 ただタバコをもう止めよう、と明確に意識したのは冬の寒い朝、所用で出かけたビジネス街でのことだった。バーの経営に必要な書類を無事、入手し、小腹も空いたので、なにか食べようと飲食店が建ち並ぶ一角へとやってきた。
 最初、その行列を見た時は、
〝美味いラーメン屋かなにかやろうか?〟
 そう思い、その先頭を興味本位で覗いてみた。
 そして、そこで衝撃を受けた。
 それは公共の喫煙スペースだったのだ。ガラスで隔離された空間に複数の男たちがひしめき合って、スパスパとタバコをふかしている。
 中央に排煙装置が設置されているにも関わらず中は紫煙で薄く曇って見えていた。
 外に並んでいる人たちは寒そうに背中を丸めつつ忍耐強く自分の番が来るのを待っている。
(タバコ吸うのに、ここまでせなあかんのか!)
 草薙はここ最近の分煙の流れには大いに賛成である。喫煙はあくまでマナーを守って、周囲に迷惑をかけないようにするべきだ。
 だが。
(もーすこしタバコ吸える場所があってもええやろ、って思うんやけどな)
 それは煙草のみとしての本音だった。
 そして不思議なモノでその行列を見ていると草薙自身もまた無性に一服したくなってきた。
 理性ではアホらしいと思いつつも、列の最後尾に並ぶ。木枯らしが吹く中、十分ほどかかってようやく喫煙ブースに入り、タバコを取り出そうとしたところ、指先がかじかんでいて二度ほど床に取り落としてしまった。
 それから震える手でようやく火をつけ、ふうっと煙を吸い込んだ時。
(あかん。ちょっと禁煙も考えよ)
 ふいにそう思ったのだ。

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