【小説】探偵・蘭野 豪の奇妙な日常

第1章【蘭野 豪はハードボイルドになりたい】

第1話


20XX年、世界はそこそこ平和だった

大地は割れてないし海も枯れてない
あらゆる生命体はまぁまぁ普通に生きてた


だが…

人類はトラブルだらけだったのでそこはまぁまぁ困っていた!


ー都内・某所ー

「もう、かれこれ1週間…連絡がつかなくて…」

俯きながらソファーに座る男、
今回の依頼人である彼はポツリとそう口にした


私は窓の側に立ったまま、
上着のポケットからタバコを取り出し、火をつける
煙を吐いてから一言、彼に問いかけた

「何か、心当たりは?」

依頼人は俯いたまま首を横に振る

「そうか…」

私はもう一度煙を吐いて窓の外を見る

午後から降り出した雨がすっかり街中を濡らしている
さながら、この依頼人の心情を映し出しているかのようだ

三度目の煙を吐き出し、私は口を開いた

「わかった…その依頼、受けよう」

依頼人に背を向けたまま、私は依頼を承諾した


「受けよう、じゃないです」

ハッとして私は後ろを振り返る

「大体、タバコを吸う時は窓を開けてと言いましたよね?そもそもお客様の前で吸わないでください」

「いや、その方が雰囲気出るかなーと…」

「出るかなー、じゃないです。マナーです。それとちゃんと敬語で話してください。失礼です」

「この方が頼り甲斐ありそうに見え…」

「言い訳しないでください」

「はい、すみません…」


私はいそいそとタバコの火を消し、
いそいそと窓を開けた

「一応雇用主は俺なのに…」

「何か言いました?」

「いえ、すみません…なんでもないです…」


くそぅ…

コーヒー用意してくれてる間だけでもハードボイルド気分を味わいたかったのに…


窓を開け終わった私はいそいそと依頼人の前のソファーに腰掛けた


「さて…では気を取り直して、まずはちゃんと自己紹介から始めましょうかね」

「自己紹介もしてないのに『その依頼、受けよう』とかカッコつけてたんですか?」

「はい…すみません…もう勘弁してください…」

「呆れた…」


キョトンとした表情でこちらのやり取りを見ている依頼人の視線に気付いた私は、
改めて真っ直ぐ依頼人の目を見つめて自己紹介を始めた


「コホン…改めて、蘭野探偵事務所にようこそ。私が所長の蘭野です」

【蘭野 豪(らんの ごう)】
都内で私立探偵をしているこの物語の主人公
ノリと勢いで生きているが、厄介な依頼ほど好んで引き受けるため、「困ったら蘭野に頼め」と言われるほど評判はそこそこ良い
探偵というより何でも屋として認知されている傾向がある
過去の事はあまり語らないため、何故探偵を始めたのかは謎に包まれている(伏線)

どうでもいい話だけど、私立探偵ってよく聞くけど公立探偵って聞いたことないよね
調べてみたら刑事のことを探偵って昔は呼んでたんだって
それとの区別のために私立探偵って言葉が生まれたんだとか


「助手の仁部です」

【仁部 華恋(にべ かれん)】
とある事件をきっかけに蘭野の助手になった女性
ツッコミ役の雰囲気だが実は天然
たまに何故かコスプレをしてくる時がある
理由を聞いても「なんとなくです」としか答えてくれない
基本的には温和だが年齢の話や、とあるいじりをするとめちゃくちゃ怒る
除菌好き


「お名前をお伺いしても?」

私は依頼人に名前を尋ねる

「黒田…黒田 幕斗と申します」

【黒田 幕斗(くろだ まくと)】
事務所に入ってくるなり慌てた様子で依頼をしてきた男
ある日突然彼女と連絡が取れなくなってしまい、行方がわからなくなってしまったようだが…

名前的に偽名な上に黒幕な気がするけどきっと気のせいだろう


「黒田さん、彼女さんと連絡がつかなくなってしまったとの事でしたが、最後に会ったのはいつですか?」


私はまず情報収集としていくつか質問をぶつけてみる事にした
全くの赤の他人が個人の動向を調べるために依頼をしてきていたとしたら危ないからだ


「最後に会ったのは…2週間ほど前です。実は、明日は彼女の誕生日でして、そのプレゼントを選びに2人で出かけたんです。これ…その時の写真です」


黒田はスマホを私に差し出してその時に撮ったであろう写真を見せてきた

なるほど、手早く画像の情報も見てみたが撮影日は確かに2週間前

2人同時に楽しそうにしながら写っている所を見ると、知らない仲ではないというのも見て取れる

写真自体も複数枚違う場所で撮影したものもあり、
付き合っているというのは真実味を帯びている


「なるほど…2週間前、何か彼女さんに変わったところはありましたか?様子が変だったとか」


黒田は少し考えた後、首を振りながら答えた


「…いえ、今思い返してみても何も…普段通りの彼女でした」

「そうですか…ふむ…2週間前に変わった様子は無く、1週間前から連絡不通、2週間前から先週までは連絡自体は取り合っていたんですよね?その中で変わった事は?」

「いえ…それも思い当たる部分はなくて…ホント急にぱったりと連絡が取れなくなってしまいまして…」

「もし差し支え無ければ、やり取りを見せてもらっても?」

「えぇ、大丈夫です。えっと…これですね」


黒田から再度スマホを見せてもらう
よくある有名なメッセージアプリでの履歴が表示されている

確かに、やり取り自体に不審な点は見当たらない
何気ない日常の会話や今度の誕生日を楽しみにしている旨の内容などが続いている

最後は黒田が送った「誕生日のディナーはどこのお店がいい?」が未読のままになっている
日付は確かに1週間前だ


「電話をしても繋がらないですし、朝昼晩と家にも行ってみたのですがいる気配もなく、携帯は3日前から電源が入っていないアナウンスも流れているので、何かあったんじゃないかと不安で不安で…」

「やり取りも、関係性にも不審な点はない…唐突に消えた彼女…ですか…ちなみにですがもちろん、警察には?」

「えぇ、3日連絡が取れなかった時に相談しています。ですが、進展が無く…色々な方面に相談する中で、蘭野さんを紹介されまして…」

「そうでしたか。なるほど、事情はよくわかりました」


私はコーヒーをひと口啜って少し考える

考えられる事としては、
・何か事件に巻き込まれた
・事情があって遠くに行ってしまった
・近くにはいるが、連絡が取れない事情がある
この3パターンが有力

それがこの1週間で起きている

現状ではヒントは無し
まずは情報収集が必要

と、こんなところだろうか


「黒田さん、まずは情報を集めてみようと思います。そうですね…2日ください」

「え、た、たった2日でいいんですか?!それに、受けて頂けるんですか!」

「えぇ、2日もあれば十分です。依頼を受けるというのは最初にもうお答えしてますよ。手応えのありそうな依頼じゃないですか」


不謹慎だが、ついニヤリとしてしまう

こういった難しそうな依頼こそ、探偵としてやり甲斐のある仕事だと私は感じている


「まぁ、今と同じようにコーヒーでも飲んで待っ…あれ…?カップが1つしか…無い…?」


テーブルに置かれたコーヒーカップは1つしか見当たらない
もしかして私が飲んだコーヒーって黒田さん用…?

バッと仁部さんを見る

仁部さんは舌を出してテヘペロポーズでごめんのサインをこちらに送っていた


(いや、ごめ、じゃないのよあーた…ベストウッカリストか君は)

「えーと…では黒田さん、最後に彼女さんの名前と顔のわかる写真をいくつか頂けますか?」


……………
…………
………


黒田が帰った後の事務所内で、今回の依頼についての作戦会議を行う事にした


「さて、仁部さん。とりあえず今後の事について決めようか」

「わかりました。海の見える家で波の音を聴きながらゆっくり過ごしたりしたいですねぇ」

「いや、知らんよ。そんな今後の話はしてないのよ。今回の依頼についてどうしていくかって話をしたいのよ。人生ベースの話じゃあないのよ」

「それならそうと言ってください。主語がないから相手に伝わらないんです。反省してください」

「あっれー…?俺が悪いのか…?流れで会話すると怒られる世界線に迷い込んできたのか…?」

「いいから今後の事はやく決めてください」

「えぇ…えっと…山の中で自分で作ったログハウスで自然に囲ま」

「真面目にやってください」

「はい…すみません…」


突っ込んでもノっても怒られる

こんな理不尽な世界が今まであっただろうか

泣きそうである


「えっと…とりあえず情報を集めようと思う。黒田さんの彼女が近くにいるのか、遠くにいるのか、まずはその2択を潰すことから始めないとね」

「じゃあ、まずはあの人に会いに行くんですね?」

「そうだね、まずは彼に会ってみようと思う。東京で情報を集めるなら彼以上に詳しい人はいないからね」

「わかりました。お気を付けて」

「うん…ナチュラルに送り出そうとしてるけど、君も行くんだよ?助手でしょ?」

「え…夕方から見たいテレビが…」

「仕事ナメんなコンニャロー」


そんなこんなで事務所を出た私達は、
“彼”に会うため、とある場所へと向かった



続く

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