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海外転職のリアル:オーストリアでの子どもの学校探し

海外企業への転職を考えた際に最も気になるのは、帯同する家族の生活面であろう。特に子どもの学校に関しては、最も悩ましい問題である。我が家が住むことになったグラーツ市はオーストリア第2の都市であったが、人口はわずか25万人で、日本人住民は約25人しかいなかった。当然ながら、そんな小さな街に日本人学校は存在しない。オーストリアで日本人学校があるのはウィーンだけである。ウィーンからグラーツまでは高速道路で約3時間かかるため、毎日通勤するのは現実的ではない。そうなると、現地校に入るか、私が単身赴任をするかの二択となる。

我が家の場合、少し事情が異なっていた。息子は、親より1年早く海外生活を始めていたのだ。息子がイギリスに留学すると決めた時には、オーストリアに転職・転居するなんてことはまったく考えてもいなかったが、せっかくなので、できれば家族全員が一緒の国に住めるようにしたかった。正式に転職が決まってすぐに、グラーツに息子が通える学校がないか探し始めた。オーストリアの教育制度はドイツに似ており、10歳で小学校を卒業し、その後、大学進学を目指すか職業学校で手に職を付けるか、2つの進路を選択することになる。前者はいわゆる「ギムナジウム(Gymnasium)」と呼ばれる学校で、10歳から18歳まで通い、その後大学に進学する。息子は11歳だったので、イギリスのボーディングスクールからオーストリアのギムナジウムへの転校を考えた。

インターネットで検索すると、グラーツにはインターナショナルのギムナジウムがあることがわかった。この学校は公立であり、オーストリア人の子どもたちが通っているが、授業はすべて英語で行われるという。これならイギリスで1年間留学していた息子も、なんとか勉強についていけるかもしれないと思い、早速その学校にメールを送り4月の面接を取り付けた。

4月は息子の学校が中間タームという学期中の休暇に入っており、その期間にグラーツへの引っ越しを済ませ、イギリスの学校からもらった推薦状を持参してグラーツのインターナショナル校に入学面接を受けに行った。校長先生が直接対応してくださり、息子とマンツーマンで面接をして英語力を確認してくれた。息子はまだ1年しか英語を学んでいなかったが、9月の新入生に対して1歳だけ年上の11歳ということで、1年学年を下げて新入生とともに入学することが認められた。子どもたちの英会話学習の相手として、クラスに何人か英語ネイティブの子どもを入れたいという意向があったようだ。息子の英語力がネイティブ並みかどうかは甚だ疑問だが、年齢が新入生に近かったことが良かった。もしドイツ語の普通校に通うことになっていたら、英語よりもはるかに勉強するのが困難なことは明白だったので、インターナショナル校に入学が決まってほっとした。

ちなみに、この学校はインターナショナル校でありながらオーストリアの公立校なので、基本的に学費はかからない。外国籍の我が家は少しだけ追加費用が必要となったが、それも年間3万円程度で済んだ。これまで息子が通っていたイギリスのボーディングスクールと比べると、学費が大幅に減り(100分の1以下だ)、家計的には非常に助かった。ある意味、親孝行な息子である。このインターナショナル校は非常に良い学校で、その後、さまざまな学校を経験することになる息子にとっても、最もお気に入りの学校となった。現在でも当時のクラスメートとSNSで連絡を取り続けているようだ。

息子の場合、偶然1年前からイギリス留学をしていたためうまくいったが、もし全く日本の学校しか知らないままヨーロッパの学校に転校していたら、どうなっていたのだろうか。ご存知の通り、ヨーロッパでは英語を第一言語として使用している国は少ない(イギリスはヨーロッパ外という認識である)。どの国に行っても、学校の授業は基本的にその国の言語で行われる。日本語で教育を受けられる日本人学校は、各国の首都にしか存在しない。そして、私のようなエンジニアが就職する場所は、往々にして首都以外の都市や地方にある。

当時はインターネットを利用した学校教育は皆無であったが、今ではネットを使って学べる学校が多くなっているようである。もちろん、日本の義務教育を受けたことにはならないであろうが、息子の例を見ても、それは大人になってからあまり重要なことではない。せっかく家族で海外に住む機会があるのだから、ネットで学べる環境があるならその手を利用するべきである。日本の学校で幼少期から受験勉強に追われる生活よりも、異国での生活の中で学ぶことのほうが、はるかに子どもの将来に役立つと確信している。

結局、我が家の息子は小中高のほとんどを海外で過ごし、高卒認定を取って日本の大学に入学し、現在は東南アジアの某国で働いている。日本での初等教育を10歳以降まったく受けていないが、特に大きな問題はなかったようである。いや、もしかしたら親が知らないだけで、今になって大問題になっているかもしれないが…(笑)。

(続く)