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能動的5バックノススメ

はじめに フォーメーションの印象論

皆さんは「3-4-3」というフォーメーションを見てどう感じますか?(雑な質問ですいません)
3バック&3トップだから攻撃的?それともFW、MF、DFが均等に分かれているからバランスが良い?流石に守備的とみなす人はいないでしょうね。では3-4-3の変化形である5-2-3は?5-4-1は?構造は変わらないけどワイドの選手が若干後ろ寄りだから守備的?
この手の質問は、どう答えても不正解になってしまうと思います。強いて言うならクラピカよろしく沈黙が正解です。なぜならフォーメーションの並びだけで攻撃的か守備的かなんて分かるわけがないからです。勿論それは3バックや4バックだけでなく5バックにも言えることです。一般に5バックと言うと「守備的」「弱者の戦術」と見なす人が多いですし、フィールドプレーヤーの半分がDFなので守備重視のチームで採用されることが多いです。具体的な守備方法に関してもただ後ろに人を多く並べただけでシュートブロックとミス待ちがほとんど、というチームも少なくありません。
その一方で、数字の上では5バックでも積極的かつ能動的な守備をしているチームも存在します。そして個人的にそうしたチームを安易に「守備的」と評価するのは失礼だと感じています。本稿では、そんな能動的な5バックを採用するチームをいくつか紹介していきたいと思います。

能動的5バック

①コスタリカ フラット5の衝撃

2014年に開催されたブラジルW杯で一番のサプライズといえば史上初のベスト8進出を果たしたコスタリカでしょう。イングランド、イタリア、ウルグアイと同じグループDに入ったコスタリカがグループステージを首位通過するなんてコスタリカ国民ですら予想していなかったと思います。YouTubeに残っている試合のサンプルは少ないのですが、試しにGS初戦のウルグアイ戦のフルマッチ動画をご覧ください。
※久しぶりに開いたら見れなくなってました。ごめんね。

コスタリカの基本フォーメーションは5-2-3(5-4-1)で、ボール非保持時は5人のDFが綺麗に横一列に並びます。ここまでは普通の守備重視のチームなのですが、コスタリカの特筆すべき点は5バックなのにDFラインがやたら高いということ、そしてめちゃくちゃオフサイドを取る機会が多いということです。一部界隈ではトルシエのフラット3をもじってフラット5なんて呼ばれたりもしていました(主に自分)。延長戦にまでもつれ込んだオランダ戦は、ハイライト動画だけでもかなりオランダ側のオフサイドが多いことが分かるかと思います。

コスタリカはこの大会、5試合で41回、1試合平均約8回のオフサイド(守備側)を記録しました。そして当時のコスタリカには全盛期のケイラー・ナバスがいるので、仮にオフサイドトラップが失敗しても最悪ナバスがどうにかしてくれるだろうという安心感があります。
しかしコスタリカの5バックはその後のロシアW杯、カタールW杯ではなりを潜め、両大会ともGS敗退という結果に終わってしまいます。一番の原因はナバス、キャンベルら主力の衰えであると考えられますが、個人的には全然オフサイドを取れなくなってしまったことも衝撃でした。結局2014年のコスタリカの守備がどのようなメカニズムで機能していたのかは謎のままです。(海外メディア含め分析記事がほとんどない…)

②シャルケ 縦スライド型5バック

2010年代、イタリアを中心に流行ったのが迎撃型5バック(3バック)と呼ばれる守備戦術です。何が迎撃なのかというと、ライン間にポジションを取る相手選手に対してDFが躊躇なく飛び出してプレスをかけに行くところです。通常4バックではDFがDFラインから10m以上離れるのはかなりのギャンブル行為ですが、5バックの場合たとえDFラインから1人飛び出しても後ろに4人いるのでいくらでも飛び出し放題です。この戦術はポジショナルプレーを志向するチームに非常に有効で、ブラジルW杯ではオランダがスペイン相手に実践し、5-1と圧勝しました。

オランダの迎撃型5バック

これをさらに発展させたのが2015-16シーズン、ペップ率いるバイエルン相手にシャルケが採った縦スライド型の5-4-1です。
DF-MF間だけでなくMF-FW間、とにかくマークが曖昧になりやすい場所でボールを受けまくるバイエルンの選手に対し、シャルケDF陣はCHとHBが1列ずつポジションを上げて捕まえるという方法で対処しようとしました。

これ(5-4-1)が…
こう(4-4-2)なる

この記事でも取り上げたように4-5-1のIHが飛び出して4-4-2に変形するという形であったり、3-4-3や3-5-2のWBが降りて4-4-2に変形する形はよく見るのですが、シャルケはそれを5-4-1でやろうとしたわけです。本来FWがいる位置にCH、CHがいる位置にHBがいる構造になるので、必然的にただの4-4-2より守備の強度は高くなります。平たく言えば5-4-1と4-4-2の良いとこ取りですね。
強いてデメリットを挙げるとするなら、縦スライドを行う選手達にかなりの運動量が求められるところでしょうか。実際シャルケもバイエルン相手に約70分間は無失点に抑えていますが、69分と後半ロスタイムに失点。1-3で敗北しています。

余談ではありますが、カタールW杯でのイングランド戦のイランの守備もこのときのシャルケに似たところがありました。しかし(具体的に何分〜とかは忘れましたが)前半のうちに諦め、普通の5-4-1にしています。

③アーセナル 外切りハイプレス

今季こそ首位に立っている時期が長いアーセナルですが、昨季以前は5〜6年ほど冬の時代でした。にもかかわらず何故かFA杯では無類の強さを誇っており、2019-20もFA杯準決勝でシティに2-0で勝利しています。そのときシティ相手に見せた守備戦術が外切りのハイプレスです。
外切りのメリットは、通常のゾーン守備と比べボールの奪取地点が中央かつ高い位置になるのでショートカウンターが発動しやすいところにあります。分かりやすい例がクロップのリバプールです。基本フォーメーションは4-3-3で走力自慢の両WG(主にサラー、マネ)が外からプレスをかけて中央に誘導し、ワイナルドゥムやミルナー、ヘンダーソンといったボール奪取と体力に自信のあるIHがそれを刈り取る。もしサイドに出されても両SBのアーノルド、ロバートソンが追いかけてくるし、色々あっても結局最後はファン・ダイクとアリソンがなんとかしてくれます笑ストーミングとも呼ばれるこのスタイルは、相手がボールを繋げば繋ごうとするほどに破壊力を増しました(過去形)。最近はアルカンタラを獲ってきたりTAAを偽SBにしたりしてポジショナル成分を強めていますね。
今季のアーセナルも、サカやウーデゴールをはじめ前線に献身的な守備をしてくれる選手が揃っているので似たような方法でプレッシングを行なっています。しかし、ここで紹介するのは今季ではなく3年前の2019-20、4-3-3ではなく5-2-3によるもの。「5バックで外切りなんて後ろが重たくて機能しないんじゃないの?」と思う方もいるかもしれませんが、全くもってそんなことはありません。むしろ後ろに人が余ってるからこそ思い切りの良い守備ができていました。

アーセナルの守備(敵陣)

これはアーセナルが相手陣内の高い位置からプレスをかけるときの形です。試合中の画像があるとより分かりやすいですね。

外切りハイプレス①
外切りハイプレス②
外切りハイプレス③

とはいえシティも馬鹿じゃないのでハイプレスをかわして運んでくることだってあります。ビルドアップに関しては世界一のチームですからね。プレスがかわされ、自陣に下がらざるをえなくなった場合はペペが下がって5-3-2、またはオーバメヤンも下がって5-4-1の形になります。

アーセナルの守備(自陣)

こちらも試合中の画像をどうぞ。

相手WGに対して2人がかりで対応
全員下がって5-4-1

この試合のアーセナルにおいて特に素晴らしかったのが前線3枚の守備です。縦の列移動を頻繁に行うペペは勿論のこと、ギュンドアンを常に監視していたラカゼット、カウンターで脅威になりつつ必要とあらばSHの位置まで下がって守備をしていたオーバメヤン…誰か1人でも欠けていたら勝てなかったと思います。

個人的に明日のPL第33節シティ戦もこのときみたいに後ろに枚数を割いて守備から入りつつ積極的にボールを奪いに行く戦いをしてほしい(サリバと冨安がいない中4バックは流石に無謀だと思うから)のですが、アルテタは一体どういう選択をするのでしょうか。いちグーナーとしてはハラハラとワクワクが入り混じっております。

おわりに

いかがだったでしょうか?
フォーメーションが5バックでもDFラインの高さやスライド、マークの仕方などによってはただのミス待ちではなく能動的に相手からボールを奪える守備ができる、ということがお分かりいただけたかと思います。上記で挙げたチーム以外に「こんなイカれた5バックやってるチームあったよ!」という情報があれば教えてください笑
本稿を読んだ方が少しでも「5バック=守備的」という偏見から脱却してもらえたら筆者としてこれ以上嬉しいことはありません。

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