見出し画像

2024/12/6読書感想文

『わたしはどこへゆく? メヒコ長距離バス旅』

会社を辞めて長い夏休み気分の編集者マルオさん(圓尾公佑)と取材する気満々の写真家コダマさん(児玉浩宜)のメヒコ旅。行き当たりばったり、そしてひたすら観光とは別のルートを歩みながら旅を続ける2人の記録。

私自身、旅に出ることに対して全く興味がなく、特にロードムービーや旅行記における旅に出ることで自分が変わった的なポジティブ思考には、いいかげん食傷気味。本書も次のステップに進むマルオさんのポジティブな旅行記をイメージしていたが、どうやらそれとは異なるようだ。読み進めていくうちにマルオさんとコダマさんの距離感に関心を抱きつつも、移民とは旅とは一体何なのかを考えていた。特に後半「Al sur 南へ」「Al mar 海へ」の章に興味を持ったので、印象に残った文章を抜粋しながら感想を述べたい。

『わたしはどこへゆく? メヒコ長距離バス旅』
¿A dónde voy? Un viaje sin destino por México en autobús

「それでも私たちは進む。これは冒険のようなもの。まだまだ私たちは旅を続けなければいけない。ここはメヒコの入り口で、アメリカにたどり着くまでまだ旅は続く。私たちの家族の良い未来のために、私たちは団結する」

P101「Al sur 南へ」

ベネズエラから来たファミリーの母親の言葉だ。
全く旅に出たことのない私には正直この気持ちがわからない。なぜアメリカに希望を抱いているのかわからない。ベネズエラの場所もわからないので地図を確認しながら読み進めた。例えて言うなら、貧しい村から関所を何箇所も突破して江戸へ行くようなことだろうか。そして1年後の今、このファミリーはどこにいるのか。幸せな暮らしをしているのか……。そんなことを考えながら写真を見つめた。

コダマさんは疲れる様子もなく、どんどん先をいく。コダマさんのペースに合わせるのがキツく、途中で諦める。コダマさんもマイペースだが、自分もマイペースなので、そこは譲れない。

P122「Al mar 海へ」

本書を読んでいて不思議に思うことがある。それはマルオさんとコダマさんはあまりケンカをしないということだ。というか、さほど歩み寄りをしていないように思う。仕事で来ているのだからと割り切れば、そんなことは関係ないのかもしれないが、時折マルオさんがコダマさんへ対して感情を露わにしている部分を見つけるとクスッと笑ってしまう。

一見コダマさんよりヘタレなマルオさんだが、コダマさんがどんなシーンで写真を撮るのかを気に留めている様子が何度か記載されている。そこには夏休み中だとしても編集者の目線を忘れないマルオさんがいる。それを読むたび、ヘタレなマルオさんと言ってしまったことを謝罪したい気持ちになった。

コダマさんの写真からはその場所の湿度や匂いを感じる。本書にはポートレートのページが組まれているのでゆっくり見てほしい。

今後も2人が共に旅に出ることがあるのだろうか。マイペースな2人なのでなかなか実現するのは難しそうだが、別の国の『わたしはどこへゆく?』を読みたいと願う。

LIBRO(本)とLIBRE(自由)は似ている。本が人を自由にさせることもある。そういう本をこれからも作っていきたい。のちに、このアイデアを自社のキャッチコピーに採用した。「Los libros hacen la vida libre(本があなたの人生を自由にする)」

P101「Al sur 南へ」

帰国後、編集者のマルオさんはType Slowlyという出版社を立ち上げた。名前の由来が気になっていたのだがこの文章を読んで合点がいった。Type Slowlyから出版される本にも注目したい。


『わたしはどこへゆく? メヒコ長距離バス旅』
¿A dónde voy?
Un viaje sin destino por México en autobús

文:圓尾公佑
写真:児玉浩宜
デザイン:牧田幸恵
体裁:128×182mm・144P・カラー
定価:2,000円(税込)
発行:Kung Fu


『わたしはどこへゆく? メヒコ長距離バス旅』トークイベントのお知らせ

高円寺のカンフーカメラにて、ミニトークと本の販売があります。本に載せられなかった話をできるだけしたいと思います。メヒコのスペシャリストではありませんが、この国に興味がある人にちょっとでも有益な話ができたらなと。今のところ書店流通の予定がないので、この機会にどうぞ。

出演:圓尾公佑、児玉浩宜
日時:12月7日(土) 18:00〜20:00
場所:カンフー(東京都杉並区高円寺北3-2-12)
※予約不要

※ワタクシ牧田はデザインを担当しました
GO ON編集人 牧田


いいなと思ったら応援しよう!