部下の強みを引き出す【はじめの一歩】
「マネジメントの重要な仕事のひとつは、部下の能力を引き出すこと、部下の強みを発揮できる育成をすることだ」こんな言葉をかけられたり、本を読んでアンダーラインを引いた方も多いのではないでしょうか?
とはいえ、「強みを引き出すこと」「強みを育成すること」が大切だとわかっているけれど、どういう関わりをすれば、部下の強みを引き出すことができるんだろうと疑問に思うマネージャーの方もいらっしゃると思います。
今回は、部下の強みを引き出し、現場の仕事に結びつけ、本人の仕事の質やスピード、量が変化した事例と共に、「強みを引き出すこと」についてご紹介します。
1. 問題点・改善点を克服させることは、部下も上司も疲弊する
ドラッカーも本田宗一郎も「経営とは強みを生かすこと」と言っています。頭ではそれが良いとわかっていても、業務の中で、ミスやトラブルが重なると、部下の弱点を指摘し克服させ、弱みを強みに変えるマネジメントに意識が向きがちです。
私自身も以前のマネジメント業務の中で、なぜそんなに仕事が遅いのか、どうしてそんなにミスが多いのか、何があればもっと効率よく成果が出せるのかなど、目に付く「できていないこと・改善せねばならぬこと」を捉えて、小言を言っていた経験があります。
もっと成長してほしい、ここを直したらもっとよくなるはず、という思いが先行し結果的にできていないところを指摘し、克服させようとするマネジメントになっていました。
できていないところを見つけて直させるという関わり方は、マネージャー自身も精神的なダメージを負い、心が疲弊していきます。受け取る部下も「君はだめだ!」と言われているようで、改善されるどころか、どんどん居場所がなくなり、職場のなかで小さくなっていく光景を目にしたことがある方は多いのではないでしょうか?
では、どんなことから始めれば、弱み克服型から強み拡張型のアプローチができるのでしょうか。
2. 「強みは何?」から、「好きなことは何?」に変える
あらゆる人材育成にまつわる本や研修で、部下の強みを発掘しましょうと言われています。大切なことはわかるけど、そんなに簡単に部下の「強み」なんて見つからないよ!そんな声が聞こえてきそうです。
そんな時はぜひ好奇心いっぱいにして、5歳の子どもにむける眼差しで「好きなことは何ですか?」と聞いてみましょう。
今回は、「好きなこと」から「強み」が見つかった事例をご紹介します。
3. ある社員の「好き」を磨いたマネジメント事例
私がマネジメントする店舗に、中途入社2年目の女性がいました。
彼女は真面目で一生懸命で、熱意や前向きさはあるのですが、時々誰もがびっくりするようなミスをします。発注書の数字を誤ったり、会議の時間に遅刻したり…その都度、なぜこういうことが起こったのか、今後どうやったらこのミスが起こらないのかなどを尋ねると、神妙な面持ちで「気をつけます。忘れないようにしっかりメモを残します」というような返事が返ってきます。
もう大丈夫かな、と思っていたら、また同じようなミスをする。全く改善がみられず、この部署では難しいから異動させたほうが良いのでは?という検討がなされているほどでした。
そんなとある天気の良い昼過ぎに、彼女を連れて職場の外にあった公園で、仕事を忘れてお互いの好きなことを話しました。
今までは「どうしたらもう2度と同じ過ちを繰り返さないか?」「何が悪いと思っているのか?」ということばかり聞いていた上司(私)が、急に「何が好きなの?どんなことをやっている時が一番胸が躍るの?」と無邪気な表情で聞いてきたので、部下は一瞬戸惑っていました。
しかし、さらに踏み込んで、私が「私は子供の頃からドラえもんが好きでね〜最近、愛蔵版を大人買いしちゃったんだよね」などと仕事と無関係な話で自己開示てみたのです。
そうすると、彼女も心を開き、職場で誰にも話したことがなかった話をしてくれました。
「実はミュージカルや演劇を見ることが好きです。アニメの声優にも憧れています。自分の声をもっと使ってみたくて、就職する時、声優になるスクールに通うかどうか迷っていたこともありました」と。アトラクションのアテンドする方やラジオパーソナリティになりたいと思ったという昔話も聞かせてもらい、彼女が「声を使った仕事がしたい」と願っていることを知りました。
よくよく聞くと、とても特徴的なよい声をしていました。
いつもは、申し訳なさそうに小さくなっているので気づきませんでしたが、好きなことを語る彼女の声にはハリがあり、笑顔が眩しく、エネルギーに満ちていました。
まさかこんな顔で話すなんてと驚きながら、好きなことを思い切り語る彼女に今までにない可能性を感じました。残念ながら、今すぐその声を活かして働くポジションは思いつかなかったけれど、「その声が活かせるといいね」と話して、屋外でのミーティングは終わりました。
その後、「声を活かした仕事」は何かできないだろうかと頭の片隅におきながら数日。近所のスーパーに夕方訪れると、特徴的な店内アナウンスが耳に入ってきました。その店の今日のイチオシ商品を原稿なしで、マイク片手にまるでライブパフォーマンスをしているように案内していました。マイクを片手に話す店長らしき男性と、彼女が重なり、まさにこのようなアナウンスを現場に持ち込むことができるのでは?と閃きました。
早速、彼女にスーパーでの出来事を伝えると、大変興味を持ち、あれよあれよと言う間に、彼女自身が店舗内でアナウンスをする計画が動き出しました。
やる方向で模索すると、今まで環境・設備的に難しいと思いアナウンスすることを控えていたのですが、案外、現状のシステムで成立できそうなことがわかりました。
さらに、今まで萎縮して自発的に動けなかった彼女が、関係各所を調整し、自分で原稿を書いて、他店舗のアンケートを集計してアナウンス原稿を作り、オリジナルのマイクパフォーマンスをはじめました。
それが驚くほど上手で、そのアナウンスが流れると、店内が活気づき、紹介したものが飛ぶように売れ、店舗の売上向上という素晴らしい成果をもたらし、店舗の名物アナウンサーとなりました。
4. 強みを聞かずに、好きを聞く
上記の事例では、結果的に社内で彼女ができる強みとなりました。
自分の居場所が見つかったと感じたのか、自信が湧いてきたのか、今まで自分の意見を出さなかった彼女は、「これをやってみたい」と口にするようになり少しずつ変化し、自主性も出てきました。
このエピソードでは、「あなたの強みは何ですか?」と聞いていません。「好きなことは何ですか?」と聞いただけです。
好きなことの裏側には、どういうことを大切にしているか。どこに価値基準を置いているかなど、メンバーが大切にしている価値観が眠っています。そして自分の強みはわからなくても、好きなことや”推し”は自分で知っていることがほとんどです。
管理職が部下の好きなことを知ることは、結果的に部下の特徴や、大切にしている価値観を知ることになり、それを抽出して磨き続ければ、活躍しチームで成果を生み出す強みを活かすことへつながります。
そして、このように見つけた強みは本人も知らない、周囲もすぐに見つけられないところに眠っている潜在的な強みです。ぜひ、部下の「好きなこと」に好奇心いっぱいで耳を傾け、「強み」の入り口を探すマネジメントを試してみてください。新しい関係性の始まりや、イノベーションが生まれるきっかけになるかもしれません。
最後に
いかがでしたでしょうか?
管理職として部下の強みを引き出すための「はじめの1歩」をご紹介させていただきました。
もし、自分のマネジメント力を向上させたい、もっと部下を活かしたマネジメントができるようになりたいなど、管理職としてご自身のマネジメント課題を克服し、管理職としてリーダーシップを発揮しながらマネジメントできるようになりたい方は、是非Good Teamの体験セッションをご利用ください。
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