『揺れ』
百貨店の上層階、アパレル店員として働いていた。
ガランとしており、あまりお客様はいない。
突然、ゆっくりと大きな横揺れがきて、もう1人の店員と寄り添いながら、カウンターの傍でしゃがみこむ。
隣の店舗のスタッフも、3人それぞれ床に座り込んで怯えていた。
館内の職員達が慌ただしく走り回り、お客様を誘導する。私達も通路へ出てお客様の誘導を促す。
フロアの端にある店舗の横とATMから、白い煙が出ており、白い煙はやがてフロア全体へと充満していった。
消化隊が消化器で火の元を狙い鎮火させたが、上空の煙と、下に広がる噴煙で周りが霞んでしまう。
それでもゾロゾロとお客様達は無言で、エスカレーター脇の通路を通って避難していく。
フロア内のどこかで電話が鳴っている。
急いで自分の店へ戻り、カウンターの扉を開いて子機を握りしめる。
「はい、マルイイマイ○○店、Keyです。」
上司からの連絡だった。
「怪我人はいない?館内の職員の指示に従って!退店を促されたら帰宅して!」と手短に言われ切られた。
カウンターの上にハンモックのような網があり、食器が飾られている。
次の揺れで落ちてくるかもしれない。
もう1人の店員に「頭上に注意して。」と伝えると「さっき聞きましたよ!」と言われてしまった。
彼女も、上に飾ってある食器を見ていた。
しばらくして、座って待機していた各ショップの店員たちは職員の誘導によって店外へ出た。
入口にある、安全管理センターで「上司から職員の指示に従い、帰宅の指示があれば帰るのですが…」と伝えた。
私自身も早く帰路に着きたかったのと、スタッフも早く帰らせたかった。
安全管理センターの受付にいた女性が箱折菓子を持って「あの、これ…」と戸惑いながら私に確認してきた。
先程電話をかけてきた上司からの差し入れだった。
安全管理センターで受け取って良いものか、困っていたらしいが「良かったら受け取ってください。」と伝えた。
電話の後に、近くの拠点から、急いで箱折菓子を安全管理センターに差し入れしたのだろう。
いつも最後まで残って点検するのは、安全管理センターの職員達だから。労いを込めて。
帰りたかったが、館内の職員達が階段を昇り始めたので、ついて行くしかなかった。
私1人でいいので、もう1人のスタッフは帰らせた。
不安な顔をしていたが、帰宅しても次の揺れがいつ来るかなんて誰も予測できないし、どこが安全かなんて誰も分からない。
無事である事を願いつつ、フロアに戻り、自店のフロアに座って次の指示を待った。
モヤモヤした気分で目が覚めた。
ストレッチをしていると、アパート内なのか外なのか分からないが、近くで犬が吠えている。
アパートはペット禁止だが、誰か飼っているのか…?
初めて聞く犬の鳴き声だったので、もしかしたら散歩中に近くで吠えてたのかもしれない。