『部屋』

私は、前の部屋から今の部屋へ引っ越さなければならなくなった。

前の部屋はフローリングで広く、窓も大きい開放的なワンルームだった。

古いけど結構気に入ってたのにな、この部屋。

近くのスーパーで買った卵の黄身が、黒透明の鳥の形になりかけていたものであり「この卵はなんの鳥の種類だ?」とクレームを入れたら、保管していた全ての卵をわざと棚を倒して全滅させ、証拠隠蔽していた。

近くの建物の屋上には、黒いカラスのような親鳥と雛達が沢山おり、屋上から落ちた黒い雛が、壁から生えている野生のモンステラの葉の上で、弱りかけていた。

私は雛を、傍で見守っていた親鳥の元へそっと返し、その場を離れる。

そして急遽、部屋を追い出されるように次の新しい部屋へ行った。

その部屋は、突き当たりに大きな窓が1つ、部屋はピンク色のサテン生地で、綺麗に整えられた状態の大きなベッドで占領され、右側が全面鏡ばりのスライド型クローゼット、左側が襖の押し入れとなっていて、まだ前の住人が住んでいるかのように物が沢山あり、とても圧迫感のある狭い部屋だった。

左右の押し入れやクローゼットを開くと服がびっしり掛けてあり、隙間がないほど鞄や物がある程度綺麗に納められていた。

若き頃の相川七瀬のような女性が、私の仕事の相方として部屋にいた。

私の母が突然来て、沢山の服を見た後に「近々同窓会があるんだけど、服借りてもいいかな?」と言い出した。

ここの住人がなぜこのままにして行ったのか。
理由を探さなければならない。

とりあえず、ワンセットにコーディネートされていた洋服を母に持たせている間に、住人の身分証を探す。

ハンガーにかかっていた白い薄地のジャケットのポケットから、千円札が2枚出てきた。

傍に5歳くらいの女の子がおり、誰の子なのか分からないがその子に渡した。

革製品で焦茶色の鞄の中から、マイナンバーカードのようなものが出てきて、年配の女性の顔写真が写っている証明書が出てきた。

この方がこの部屋の住人か…

昔メディアでよく取り上げられていた、◯◯の母という、キツイ顔で髪を一本に束ねた辛口占い師に似ていた。

何があったのだろう…

色々調べていると、紺色に銀色の斜め線が入った百貨店の金券やピンクの鰐皮バッグ、値引きされた値段が付いたままの未使用品バッグも、沢山出てきた。

白の紙袋の中を見ると、小さなホールショートケーキに細い青色や黄色いのロウソクが数本ささり「◯◯ちゃんおめでとう」と書かれたチョコレートの文字が見える。

小さな黄色い菊と白い菊の花束に、お供え物。
ケーキに日付が書かれている。

2日くらい前の物だが、この世に居ない人間の誕生日を祝う、もしくはお盆に供えようとしていたのかもしれない。

そこへ同業の若い男性従業員が部屋に入ってきた。

修理工場で着るような、赤とオレンジの繋ぎを着て、相方と私に話しかける。

従業員「ここで何があったか知ってるかい?」

相方「日本刀で一斬りだな」

私「え?日本刀?」

相方「気づかなかったのか?襖に返り血ついてるだろ。ほら。」

襖を閉じると、4枚のうち2枚に緩い放物線状に飛び散った血が、赤茶色に乾き長く線を引いていた。

見落としていた私は、言葉が出てこない。

私「この部屋で殺されたってこと?遺体は?」

相方「まだ見つかっていない。」

一般人が何を知って、このような事件に巻き込まれたのか。

この部屋には、まだここの住人が住んでいる気がする。

その住人は、自身が死んだ事を無かったことにして。

私は唯一持ち込んだ、数箇所に花が開いた白い硝子作りの、大きなルームライトの1粒を落とし、窓ガラスを小さく割ってしまった事を従業員に伝え、修理を依頼してここには住まない事を伝えて去った。

後味が悪い夢だった。

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