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愛聴盤(19)ソロモンのベートーヴェン後期ピアノ・ソナタ集
私が、ベートーヴェンの後期のピアノ・ソナタに深く共感できたのは、ソロモン・カットナーの演奏を聴いて以降だ。アナログレコードである。
私の所有するEMI盤(仏パテ・マルコーニ盤)には、第29番から第32番までの四曲がLPレコード2枚に収録されている。1950年から56年までにロンドンのアビーロードスタジオで収録されたもの。モノラル録音だが、いつ聴いても惚れ惚れする響きがする。
あまりにも気に入っているので、数年前に中古のCDも入手した。同じジャケットイメージのEMI Referencesというシリーズで、こちらには第27番(この曲だけステレオ録音)と第28番も入っている。サイモン・ギブソン氏によるデジタル・リマスターされた音源で、Made in USA。
音質は断然レコードが好みだ。CDも決して悪くないが、音が細く感じる。レコードの音は深く響く。空気感も生々しい。
第30番は、いつも冒頭の一小節目から心を掴まれる。第一楽章から、第三楽章の変奏曲まで一音一音が丁寧に紡がれる。気品を感じさせる。
第31番も極めてノーブルな演奏だ。どこにも誇張がないが、心の底に響く。フーカが始まるあたり、救世主が降臨してきたかのような神々しさだ。この時期にソロモンは脳梗塞を発症しており、ミスタッチがある(CDのライナーにも、フーガの右手のパートの2音が編集で補えなかったことが明記されている)。個人的に、このことはあまり重要ではない。
彼を襲った過酷な運命によって、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集録音さ中断されたことは、ファンにとって痛恨の極みである。