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私を救った音楽(3)知られざる作曲家グラウプナー

だらだらと布団に横になる生活の中で、やっていることと言えば、スマホでYouTubeをボーっと見るだけ。

罪悪感に苛まれる日々、音楽がそれを癒してくれます。YouTubeで、たまたま見知らぬ作曲家や演奏家に巡り合うこともありました。

ある日、美しい女性のジャケットが目に飛び込んできました。

「この人、誰だろう?」

彼女の名前は、Miriam Feuersinger。
「フォイアージンガーさんって、『炎の歌手』?すごいお名前だなあ。」どうやらソプラノ歌手のようです。

早速、動画を視聴しました。クリストフ・グラウプナーというバロック時代の作曲家によるソロ・カンタータです。

フォイアージンガーさんは、お名前からするとヴェリスモ・オペラの歌手のようですが、その対極にあるノン・ビブラート唱法の古楽演奏のスペシャリストのようです。高域のコントロールもきめ細やかで滑らか。静謐な宗教曲に実によく合います。古楽ジャンルの演奏家でありながら、重心が低くて安定感があります。

器楽の演奏は、カプリコルヌス・コンソート・バーゼルという団体。メンバーはゲストのオーボエ奏者含め7名。今時の古楽演奏は、耳に突き刺さるようなことはなくて、ピアニシモのサウンドが心地よい。

カンタータ「ああ、神と主よ」のアリア「ため息と泣き声、疲れた目(日本語訳に自信はありません)」は、オーボエ・ソロに導かれて、ソプラノが悲痛な歌詞を歌い上げる。時折、ソプラノの長いフレーズと対照的に、短いパッセージを弾くチェロが印象的です。ひたひたと心に染み入るような魅惑的な音楽。

フォイアージンガーさんの高音コントロールは正に神レベル。力感の無いクレッシェンドも素晴らしい。

「これは買わないと!」

思わず、AmazonでCDを探してポチってしまいました。

クリストフ・グラウプナーは、バッハ、ヘンデル、テレマンといった大作曲家と同時代に生きた人だと知りました。優れた作曲家であったことから、雇用主であるヘッセン=ダルムシュタット方伯が、彼を手放そうとしなかったそうです。また、彼の死後、残された作品をめぐり、雇用主と遺族の間で、訴訟沙汰になったそうですが、雇用主が勝訴し、彼の作品は、その後、城館の中に長年眠ったままとなったのでした。

ライプツィヒの聖トーマス教会のカントルの地位が空席になった後、グラウプナーに打診があったそうですが、ヘッセン=ダルムシュタット方伯が、高給を支払って彼を引き留めたことから、結果的に、ヨハン・セバスティアン・バッハにお鉢が回ってきたそうです。この経緯が無ければ、我々は、バッハはカンタータや受難曲を作曲する機会が失われたかもしれない。そう思うと、ヘッセン=ダルムシュタット方伯に感謝しなければなりませんね。

このような優れた作曲家が、後世に忘れ去られてしまったのには、このような理由があったのですね。グラウプナーの遺族は、さぞ悔しい思いをしたでしょうが、結果的に、グラウプナー作品の楽譜が、あちこちに散逸せず、長年にわたり城館の中で良好な保存状態で遺されたことは、現代に生きる我々には幸運な事だと言えましょう。

ミリアム・フォイアージンガーさんの魅力に取り憑かれてしまい、バッハのカンタータ集も買ってしまいました。

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