オーディオのお話(16)CDの敗北か?ハイレゾと聴き比べる
Apple musicに入会して1ヶ月。クラシックやジャズの名盤探しにうってつけのサービスは魅力的です。
一般にCDでしか販売されていない音源が、このサービスでは、「ハイレゾ・ロスレス」で配信されているものがあります。
例えば、英国の指揮者ジョン・バルビローリが、1966年から1967年にかけてウィーンフィルを振って正規録音したブラームスの交響曲全集。クラシック音楽ファンにとってあまりに有名なレコーディングですが、これもApple musicならハイレゾ・ロスレスで聴けるのです。
私の所有しているCD3枚組はワーナー盤。2012年にリマスターされた音源です。従前のEMIより明瞭な音質と思います。Apple musicのタイトルジャケットも同じデザインです。
この名演奏についても触れましょう。私のCDケースの裏面に、この演奏の特徴が以下のように記載されています。
“and these performaces are notable for their rich,ripe sonorities and expansive warmth.”
この一節だけで、演奏の特徴をほぼ全てを言い尽くしているのではないかと思えます。バルビローリの音楽には、お世辞にもスマートさはありません。熱く濃厚な演奏が魅力です。イギリスからやってきた頑固者の指揮者が洗練さの極みとも言えるウィーン・フィルを振ったとき、両者にどんな化学反応が起きたのかが聞きものです。
聴き比べに使用したのは、密閉型ヘッドホンのサトレックスDH297。
Apple musicの試聴機器はiPhone。ライトニング端子にエレコムの変換プラグを介して、ヘッドホンに繋ぎました(A)。
一方のCDは、いったんiTunesでパソコンにAIFFで取り込み、iPhoneにコピーしたもの(B)と、CDそのものをDCD-2500NEで再生し、PM8006のヘッドホン端子から出力したもの(C)を試しました。
結果を先にお伝えします。(A)のハイレゾ音源が、(B)と(C)より音質が優れています。当たり前と言えば当たり前なのですが...
具体的に述べていきます。
まずは大学祝典序曲op.80。第一印象では、CD音源に比べて、ハイレゾはおとなしく感じます。しかし、良く聴けばハイレゾの方が音色が艶やかです。特に、ヴァイオリンやフルートの高音は、CD音源ではキツく聴こえるのに、ハイレゾは滑らかです。
交響曲第1番、第二楽章の90小節から、有名なヴァイオリンのソロが出てきます。ハイレゾ音源は、この音色が艶やかであるだけでなく、この裏で、ホルンとオーボエが伴奏し、美しいハーモニーを奏でているのに気づきます。その部分はCDだと、ヴァイオリンのキツさがうるさい音になり、他の楽器の音とのハーモニーが楽しめません。
しかし、この結果だけで、ハイレゾ音源が全てにおいて一般の音楽CDよりも優れていると判断するのは早計でしょう。個人的には、私の所有しているこのワーナー盤CDの音が粗すぎて、比較にならなかったと感じました。事実、買った当初に何回か聴いた後、音質が気に入らず、数年放置していたのです。古いアナログ期の音源をデジタルリマスターした場合、その手間暇のかけ具合で、全てが良い結果にならないことを物語っているようです。
また、どんなに再生機器におカネをかけても、そもそもの音源が悪くては良い音にならないことを再確認しました。もちろん、(B)よりも(C)の方が音が分厚く、説得力がありますが、いったん(A)を聴くと、この音の方が、ウィーン・フィル本来の音に近いのだろうことがわかります。
調べてみると、この演奏、タワーレコードでSACDハイブリッド盤も出ているのですね。
ジョン・バルビローリ/ブラームス: 交響曲全集、悲劇的序曲、大学祝典序曲、ハイドンの主題による変奏曲<タワーレコード限定>
これを買うほど、この演奏に思い入れがあるわけでもないので、パスかな...と。バルビローリを聴くなら、ブラームスよりマーラーの交響曲の方がしっくりきます。
Apple Musicで聴けるこうしたハイレゾ音源。確かに魅力的ではあります。一方で、「どうしても聴きたい音源がApple Musicに入らないと聴けない」といった特殊事情がなければ、サブスクリプションで毎月定額支払うことに抵抗感が残ります。優秀な録音であれば、フォーマットが一般のCDでも十分楽しめるものが多くあることを、私は知っていますから。
Apple Musicの無料期間まであと2か月。色々試してみたいことが広がります。