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今夜も召し上がれ フライドチキンの炊き込みご飯

第25夜 フライドチキンの炊き込みご飯

 現在時刻はメリークリスマス。
 そういうわけで、俺は24、25と連勤である。独り身の悲しさが骨身にしみる。

 バイト帰りの深夜の道をぽてぽてと、腰の疲労が可愛らしい効果音で滲む歩き方で家路を辿る。
 ふと見ると、煌々と灯りの灯るコンビニエンスストアが、終電直前の掻き入れ時とばかりに、寒空の下に置いたチキンのショーケースをピカピカさせている。ちょうどクリスマスだからだろう、普段見ない骨付きのフライドチキンがケースの最上段を陣取っていた。
 サンタクロースも大変なものだ。
「タイムセールでーす」
 2個で30円引き、というプラカードを持ったサンタクロースが、ほわほわと白い息を吐いている。
 俺はこういう割引に弱い。
 しかし、寒さとここ数日のカフェインの摂取がかなり胃に来ていて、フライドチキンふたつを平らげて明日元気に働きに行く自信がない。俺はしけたパチンコ屋でアルバイトをしているが、クリスマスイヴだの、クリスマスだのに、しかもその夜に、パチ屋に来るような奴がまともなわけがないのである。おまけについさっき、元旦からの連勤では中堅として酷使される預言をいただいてきたところで、うう胃が。
 美味しいものは食べたいが、胃薬を飲んでまで働きたくもないし、と思ったところで、ふと閃いた。

 これは、「フライドチキンが余る」という事象の発生チャンスなのでは?(ちゃらちゃらちゃらちゃらちゃら~ん♪スーパーラッキー!)

 フライドチキンの紙袋を上着の両方のポケットに入れて、いそいそと俺のお城の鍵を開ける。
 まず手を洗い清めたら、シンクの下の収納から2合炊きの電子レンジ用炊飯容器を取り出す。
 俺は、この手の炊飯容器を2つ持っている。1合のと2合のやつだ。炊飯器は速攻で新しい世界を創造したため、あるにはあるがあるだけである。
 1合は白米を炊くには十分だが、容量が少ないので炊き込みご飯には向かないし、2合炊きはかさばるうえに1合炊くにも20分かかる。1合炊きの倍である。
 あちらを立てればこちらが立たぬとはまさにこのことで、今日までご飯を炊く装備は妙に充実した不精の台所でやってきている。
 洗った米に水を入れ、しょうゆとチキンのコンソメを入れ、計量スプーンで混ぜる。
 冷めてきたフライドチキンを紙袋から出し、米の上に置く。
 両方とも入れてしまう前に、少しかじってみる。
「んまい」
 1合で作るレシピがなかったわけではないのだが、米は量を炊いた方が美味しい部分が多いので、2合炊いてフライドチキンも2個とも放り込むことにした。
 あとは、米に吸水させてから、炊くだけである。
 手間で言えば「だけ」ではあるが、なにせ時間がかかる。
 シャワーを浴びて待つことにする。

 暑いシャワーを浴びている間にひとつ言い訳をしたいのだが、俺はパチンコ屋の店員をしているだけで、打つ方はさっぱりである。別に自分で収拾のつく範囲でたしなむのなら誰に言い訳をする必要もないと思うが、ホールを走り回っている1年半の間に最悪の脳内効果音が染み込んだだけだということをちょっと明記しておきたい。
 というわけで虚空に向けた言い訳を終え、電子レンジのタイマーを20分にセットして、放っておくと芯まで冷え切る髪を乾かしにかかる。

 俺は髪の量が多いので、すぐ乾くと話題のいいドライヤーを買ってみようと思ったこともあるが、乾かして寝たとてサイヤ人を生成する俺の髪にあの値段はかけられないなあと思ってそれっきりである。
 髪を乾かして、洗濯物をまとめて洗濯機に放り込んだあたりで電子レンジが鳴る。しかしこれでできたわけではなくて、少し蒸らしてやらないと均等に出来上がらないので面倒くさい。
 後悔するタイミングには少し、いやかなり遅いが、もう寝たくなってきた。明日の朝にすればよかったなあ、炊くの。
 大学の冬休みの課題に向けての課題をどう料理してくれるか考えながら、20分のタイマーが鳴るのを待つ。

 そして、スマホのタイマーが満を持して炊き込みご飯が完成したことを告げ、現在時刻はクッキーとミルク。
 電子レンジを開けると、甘いご飯の香りと食欲をそそるフライドチキンの香りが溶けあって広がる。
「朝にすればよかったな……!」
 食欲をそそる香りで、唾が湧くのと同時に、目が覚めるのを感じる。
 あまりの眠さに炊き立てをひと口ふた口味見して、残りは冷凍でもと思っていたが、これはどうしてもしっかり食べたい。

 いつものどんぶりもいいが、クリスマスらしくこぎれいな器がいいだろう。こぎれいといっても、春のパン祭りのサラダボウルだが、こぎれいに変わりはない。スプーンでフライドチキンをほぐしながら、上下を返してご飯と混ぜる。さすがに電子レンジ調理でおこげはないが、フライドチキンの衣の香ばしさがいい雰囲気を出している。
 白いサラダボウルにしとやかに盛り付けて、少し高めに盛り上げた中央に黒胡椒をぱっぱとやれば、フライドチキンの炊き込みご飯の出来上がりだ。

 身をほとんど外したフライドチキンの骨は素手で持ってきれいに食べ尽くすとして、まずはこぎれいに整えたクリスマス夜食を楽しむことにする。
 妹たちのところにはもうサンタクロースが来ただろうか。
「いただきます」

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