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込められた祈り

先日、地下街を歩いていたら前を歩いている人のパーカーの背中に「no rescure」と書いてあり、google翻訳にかけてみると「救出しない」と出た。随分思い切った宣言を背負い込んでしまったものである。

そのあとトイレで鏡に映った私のTシャツには「weekend(週末)」と書かれていた。その日は月曜日であった。浮かない顔をして会社へ向かう社会人を尻目に、私は呑気に事実誤認をぶら下げて市街を闊歩していたのだ。彼らの目には私のことが日曜日からの使者に見えていれば嬉しいがそんなわけはない。

昨年の冬、自宅の近所にあるコンビニに行った時のことだ。
一月ともなると一面がすっかり雪景色で、コンビニの入り口にはヒーターマットが敷かれていた。電熱により温められ、降る雪を逐次溶かして入り口の積雪を防ぐという代物である。

しかしその理念も虚しく、ヒーターマットは凍結していた。
なぜなら、彼が溶かした雪は溶けるそばから凍結するからである。真夏の氷売りが羨むほどに透明な良質の氷が出来上がっていた。真冬の北海道は開発者の情熱すら凍らせるのだ。これほど「力及ばず」といった形容が相応しい惨状もあるまい。
大方の予想通り、半数以上の客が入り口前で転倒した。なかには見知らぬ客同士が滑りあい微笑みあうといったハートフルな光景も見られたが、見ようによっては傷の舐め合いとも言えた。ヒーターマットの頑張りがより悪い状況を上塗りするという目も当てられぬこの状況に、来店したのは一組の年配カップルである。

彼らは明らかに泥酔していた。タクシーから降りた瞬間に女性が転倒し、パサついた茶色い髪を振り乱したかと思えば、酒焼けしたしゃがれた声で豪快に笑った。
パンチパーマの男性は転んだ女性を心配するわけでもなく、なぜか叱り付けていた。赤ら顔で背中を丸め、ポケットに手を入れたまま歩いている。

当然、入り口前のヒーターマットの上でも女性は転倒した。
それもきれいに仰向けになり、人生ゲームのルーレットのように尻を支点にして四回転ほどした。両手はなぜか爪を立てるライオンさんの形で、両足と共に天を向いていた。ブレイクダンスを踊るダンサーを彷彿とさせたが、くるくると回ったまましゃがれ声でキャハハと笑う声が不釣り合いに闇夜に響く。

ふと見ると、彼女の着ていたパーカーには「enjoy everyday」と書かれていた。

洋服に込められたデザイナーの「エブリデイをエンジョイしてほしい」という祈りが結実した瞬間である。私はその瞬間を目撃することができたのだ。いま、まさに彼女はエブリデイをエンジョイしている。くるくる回るのがおかしくて仕方ない様子で、立ち上がってからも笑っていた。

それを見て男性は「バカでねえか!」と怒鳴りつけた。

そして二人は、焼酎4リットルを買って帰った。飲み過ぎである。

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