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永遠のテンポエムチャイルド その8

悟と別れて

部屋に帰ると

家主さんが

現金書留を

ふたつ持ってきました。


豊岡のお父さんからのもので

お金が

20万円入っていました。


手紙も入っていて

「十詩子おめでとう。

努力する娘を持って

大変嬉しいと

私たちは思っています。

昨年の今頃

私たちは

十詩子が

大学に行かないと

言ってくれた時

本当にありがたかった。

でもその日から

私たちは

十詩子の力になれなかった非力を

悔しがる日々が続きました。

あの時に

大学を行くことを

勧めていれば

きっと

十詩子のことですから

大学にすんなり行けたと思います。

今回大学に改めて挑戦してくれて

私たちは

ありがたいと思います。

今送ったお金は

少しだけど

来月には

もっと送りますので

しばらく待って下さい。」と

書いてありました。


十詩子は

ありがたくて

涙が出ました。

親を始めみんなからもらったお祝いを抱いて

その日は

お布団に入りました。


十詩子は

お金を枕元において

お布団に入りました。

嬉しくて

なかなか眠られませんでした。


もちろん

悟と同じ大学に行けると言うこともありますが

それ以上に

大学を行くことを

周りのみんなが

応援していると言うことです。


特に両親は

窮した生活費から

当時としては大金の

20万円も送ってくれて

本当にありがたいと思いました。


また悟も

全財産を渡してくれて

悟ったら

私のことが好きなのでしょうか。


それとも別のことで

私に渡したのでしょうか。


課長や敬子も

大枚のお金を送ってくれて

、、、、、

そんなこんな事を

考えていると

うとうとと眠たくなって

寝入ってしまいました。


その日

十詩子は

夢を見ました。

高校の卒業式の日のことです。

その日のことを

夢の中で

再放送のように

ありありと

もう一度

見ることになります。


十詩子は

一年前の

高校の卒業式の日に

夢の中でタイムスリップしました。


卒業証書が渡され

校長先生の

言葉が続きます。

「皆様は今日高校を卒業していきます。

『仰げば尊し』を

この後唱歌するでしょう。

この歌は

教師達への感謝の歌と

皆様は

とらえておられると思います。

しかし教師が

生徒を指導・教育するのは

仕事であって

歌の題にあるような

尊敬されることではありません。

またそのようなことで

尊敬されても

嬉しく思う教師は

少ないでしょう。

教師が

嬉しく思うのは

『仰げば尊し』の

2番の歌詞

『身を立て名を上げやよはげめよ-、,,,』

のところです。

皆様を指導教育させて頂いた結果

皆様が学校で社会で積極的な

人生を

過ごして頂けたら

教師としては

最高の喜びです。

皆様の多くは

ここ豊岡を離れて

遠い空の下に行かれる人が

多いと聞いております。

皆様が

それぞれの道で

「名を上げ身を立て」

郷土豊岡に錦を飾って

帰郷される日が

必ず来ると

思っております。

、、、、、、」と

校長先生は訓示されました。


一年前は

何となく聞いていた言葉なのに

夢の中で

今聞くと

十詩子は

感動のあまり

涙が出てきました。



十詩子は朝になって

目が覚めて

今まで考えたこともなかった

仰げば尊しのことを

深く考えました。


出社するまでに

駅前の公衆電話から

豊岡の実家に電話をしました。


十詩子は

「お金を送ってくれてありがとう

手紙もありがとう

私会社から

奨学金をもらうことになったので

これ以上のお金はもう良いの

これからは一人で出来るから

また困ったら

頼むから

それと余裕が出来たら

また仕送りするね」と

母親に

一方的に話して

電話を切りました。


会社に行って

課長に奨学金に必要な書類を渡しました。


課長や、敬子や同じ課員は

これから十詩子を応援することになります。


入学金はお祝い金でまかない

学費については

会社からの奨学金や

少しの蓄えで

大学に納付しました。


年度末と言うこともあって

仕事は忙しくて

悟とは

入学式まで

全く会えませんでした。


入学式の日

会社を休んで

十詩子は

向かいました。

入学式では

紋切型の挨拶

などがあって

すぐに終わりました。


新入生は

教室で

オリエンテーションがあって

色々と説明や書類をもらって

その日は午前中で終わりました。


十詩子は

弁当を

食べてから

悟のいる教室に向かいました。


前に会った教室で

待ち合わせの約束を

していたのです。


悟は

勉強しながら待っていました。


十詩子は

教室の中で待っている

悟を

見つけると

後ろから近づいて

ちょっとだけ

悟を脅かしました。


悟は

少し驚いて

振り返って

十詩子を見つけました。


悟:

十詩子さん入学式終わったの


十詩子:

今オリエンテーションも終わったわ


悟:

これからは大変だね

昼は仕事夜は勉強で

寝る時間が無くならない?


十詩子:

大丈夫

好きなことだから

がんばる。

それに、、、

悟さんと同じ大学だもの

励みになります。


悟:

ぼくも嬉しいです。

何かぼくに出来ることがあれば

言ってね。

でも十詩子さんは

ぼくよりずーっと

賢いから

助けることなんて

ちょっと無いかな


十詩子:

そんなことないです。

悟さんの方が

ずーっと勉強家でしょう。


悟:

ぼくなんか親の七光りだから

すべて

自分の力で

している十詩子さんはすばらしいよ。


とふたりは

褒めあっていると

悟の友達が来て

十詩子の周りに集まってきました。


十詩子が

大学の夜学に行くことになったというと

みんなは

「すごい!

悟に会いたいから

来たんだ」と言って

二人を冷やかして

外へ出て行きました。


二人はその後

教室で話して

それからゆっくり歩いて

尼崎に帰りました。


十詩子は

悟が

十詩子のお部屋に来て欲しかったけど

言えなかったので

駅前で別れました。


十詩子はその翌日から

4時で退社して

自転車でいそいで尼崎駅に行き

電車に乗って大学に行きました。


大学に着くと

図書館に行って

悟とちょっとだけ会って

それから授業を受けて

尼崎駅近くのお風呂屋さんに寄ってから

夜の11時前にロフトのお部屋に

たどり着きます。


遅い夕食を作って

食べてから

ちょっとだけ

勉強して

そそくさと

お布団に入って

寝てしまいました。


月曜から土曜まで

同じように

大学に行きました。


会社は土曜日は

昼からは休みですが

十詩子は

早引きする関係で

土曜日の午後も

残業して

仕事をこなしていました。


月末になって

仕事が忙しくなると

日曜日も出社していました。


敬子や悟を始め

十詩子の周りの人は

十詩子のがんばりが

わかっていたので

体をこわしはしないか

心配でした。


そんな心配をよそに

十詩子は本当にがんばっていました。


そんな十詩子に

課長はある辞令を渡しました。


課長は

少し喜んだように

見えました。


辞令を渡して

「十詩子さん

おめでとう。

君の将来は

前途洋々だよ。


私の部下から

こんな人材が出たことを

嬉しく思うよ

十詩子さんなら

きっと

うまくできると思うよ」と付け加えました。


辞令は

大阪本社電算機準備室勤務を命ずるものでした。


月末は工場に

それ以外は

本社勤務と言うことになっていました。


当時の会社経理は

伝票とそろばんによる

経理処理でした。


大手企業は

そろって電算機の導入を

目指していました。


電算機自体が

高価な上に扱いにくく

低性能だったので

それを扱う人間は

今以上に

優秀な人材が必要でした。


十詩子は

その辞令を持って

午後には

大阪の本社の

電算機準備室を

訪れていました。


大阪の本社は

上本町にあって

10階建ての如何にも

ご立派というような造りのビルディングの

10階建てにありました。


入り口は

二重になっていて

受付の事務員に

出社の旨を伝えました。


本社の電算機室は

地下にあって

窓もない部屋でした。


電算機自体は

ガラスの向こうにあって

かなり大きなものでした。


電算機室長は

十詩子を呼んで

「転任ご苦労様です。

君のような優秀で

若い紅一点の人材が

我が部屋に入って

頼もしく思います。

君には

入力と

検算をお願いしたい

詳しくは

係長に聞いて下さい。

新しいことなので

我々自体もわからないことなので

みんなで

知恵を絞って進んでいきましょう」と

訓示しました。


十詩子の仕事は

今実体と名前が乖離してしまっていますが

キーパンチャーです。


当時は

カードに実際に穴を開けて

その開けたカードを

機械の入力装置で

読み込ます。


そんな仕事を

十詩子はするのですが

それ以外に

十詩子の特技である

そろばんを使っての

検算です。


電算機で行った計算を

そろばんで検算するなど

今では考えられないことですが

間違いなく計算できているかどうか

信頼性が無かった

当時の電算機には

必要不可欠だったのです。


こんな仕事を

月中頃まで

しました。


工場と同じように

4時に退社できました。


それで大学に着く時間は

少しだけ早くなりました。


悟と

ちょっとでも長く話が出来たことが

十詩子は

本社勤めが

嬉しかったのです。


こんな日課が

過ぎて

一年が経つと

悟は3年十詩子は2年になりました。


悟は

実験で

夜遅くまで

大学にいることがあったので

十詩子は

一緒に帰ることが出来て

幸せでした。


そんな幸せと裏腹に

十詩子には

いろんな課題が与えられてきました。


今までの

キーパンチャーの仕事と

検算の仕事をするために

部下が十詩子に付いたのです。


十詩子は

二十歳の若さで

部下を持つ

中間管理職になってしまったのです。


十詩子は

その責任ある地位に

困惑してしまいました。


十詩子の

管理職への道が

始まるのです。

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