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永遠のテンポエムチャイルド その2

会社とお部屋を

往復して

いつもと変わらない仕事をして

給料日がやってきます。


4月25日は

十詩子の初給料日です。


朝から会計課に先輩と敬子と3人で行って

お給料の現金を

もらってきます。


それを

経理課の応接室で

各人の給料袋に

読んで入れていきます。


課員は20数名なので

100万円を軽く超える金額を

初めて見た十詩子は

驚いてしまいました。


敬子は小声で

「私も最初この現金を見たときは

驚いたわ」言いました。


昼前に

なって

給料袋が

配られました。


各人はんこを持って

集まってきて

嬉しそうにもらっていきました。


最後に

十詩子がはんこを押して

給料袋を手にしました。


初任給は

3万円あまりです。

(著者注:たぶんこのくらいだと思いますが

間違っていましたらご指摘下さい。)


十詩子は

まずその内から

家主さんに

5,500円をひとまず渡しました。


残りは

どうしようか迷いもせず、

1万5千円は

豊岡の

実家に送りました。


残りを郵便局に貯金しました。


十詩子の家に

冷蔵庫や

テレビは

なかなか来そうもありません。


十詩子の仕事は

全く変わりません。


月末になると

月ごとの帳簿を締めます。


月ごとの集計をします。


そろばんが頼りで

先輩に指示されたように

計算します。


複式簿記ですので

計算した結果が

合わないと

もう一度最初からやり直しです。


月末は

十詩子も

残業して

計算します。


でも4月の月末は

うまく合って

敬子は

「十詩子がいたから

合ったんだよ。

十詩子がそろばんが上手で

本当に助かったよ」

と十詩子に告げました。


十詩子は

「そんな私なんて

足を引っ張っているだけですよ。

敬子さん

お上手を言わないで」

と謙遜して言いました。


その日以来

敬子は十詩子は仲良くなって

何をするのも

敬子と十詩子は

一緒にしていました。


そんな毎日が過ぎていき

7月になったとき

係長が

ふたりを呼びました。


係長は

「わかっているように

我が社では経理畑の社員を養成している。

簿記を勉強するために

学校に行って欲しい

本当は敬子さんだけなんだが

ひとりだけでは夜危ないので

十詩子さんも一緒に

行くように。

学費は出すが

残業手当は出さない。

行ってくれるか。」

とふたりに言いました。


十詩子も敬子も

ふたり一緒なら

楽しそうだし

すぐに

「行きます」と答えました。


7月の始めから

大阪の南森町の

経理専門学校に行くとになります。


会社を定時に終わった後

敬子と十詩子は

当時の国鉄の尼崎駅から

大阪に向かいます。

それから地下鉄で

一駅向こうの南森町まで乗って

駅から1分の経理学校です。


十詩子は

会社に就職してから

尼崎から出ていません。


大阪へ行くのは

高校の時に

就職のために

今の会社の

大阪本社へ

行ったのが初めてで

その時以来

行ったことはありません。


敬子とわくわくしながら

大阪の大きな地下街を通って

行きました。

経理学校は

古い鉄筋の校舎で

相当昔の

エレベーターで

ガタンガタンと揺られながら

4階の教室に行きました。


教室は

高校の教室のと同じぐらいの

大きさで

古い木の机と椅子が並んでいました。


気合いが入っている

敬子と十詩子は

黒板の前の

一番前に座りました。


会社を定時に出てきたので

少し早めというか

だいぶ早めに来てしまって

一番でした。


ふたりは

なんやかやと

話しながら時間を過ごしていると

次々と他の受講生がやってきました。


受講生は

若い女性が多くて

同じように

会社員が多いのかと思いました。


そんな中

ひとりの男子大学生が

十詩子のちょうど後ろに座りました。


彼の名前は

悟(さとる)と言います。


彼は理科系の私立大学に通っていましたが

今で言うダブルスクールで

経理の勉強のために

来ていたのです。


講義は

先生が

黒板に仕訳をひとつずつ書いて

説明してくれるもので

始めから教えてくれるので

十詩子には少し簡単すぎるものでした。


講義が終わると

外は真っ暗になっていて

電車に乗って

どこにも

立ち寄らずに

尼崎駅まで行って

そこで敬子と別れて

お部屋に帰りました。


会社の仕事は月末には

忙しくなるので

ぎりぎりまで

仕事をして

学校に急ぎます。


少しだけ遅れても

いつもの前の席が

空いています。


別に決まっているわけではないのですが

1回目に座った席が

ズーと決まってしまいました。


そして後ろの席には

悟が座っていました。


十詩子は社命ですので

一度も休まず通っていましたが

悟も一日も休んでいませんでした。


初めのうちは

十詩子は

悟のことなど

何も思っていなかったのですが

ある日敬子が

「後ろの男の子

十詩子の髪の毛を

スケッチしてたよ」

と言う言葉を聞いて

急に気にしはじめました。


悟は確かに

十詩子の髪の毛のスケッチをしていました。


それは十詩子が好きだとか

意識していたのではなく

彼は流れるような髪の毛が

好きで

最初は

それを描くのが好きだっただけなのです。


十詩子は

そう言われてみると

「私に気があるのかな」

と思ってしまいました。


そして気になり始めました。


十詩子は

敬子に何気なく聞いたり話したりしていました。


そんな日が続きました。


講習は3ヶ月で終了です、

夏も過ぎて

9月になると

もう学校は終わりになってしまいます。


それで

一週間ばかし考えて

敬子と相談して

十詩子は

何か話すきっかけを作ることになりました。


予行演習もしてみました。

そのきっかけを作る日は

最終回の前回に決めました。


小道具の目薬も用意しました。


その日がやってきました。


十詩子と十詩子を応援する敬子は

いつもの席に座りました。


後になって

なぜこんな大胆なことをしたのか

そしてなぜこんな方法なのか

わからないと

十詩子は思ったことですが

この日のこの時間の

十詩子は合理的な考えが出来なかったのです。


(ここまでは

フィクションです。

ここからは名前は仮名ですが

ノンフィクションです。)


先生がいつものように

少し横道にそれて

教室が少しだけざわついた時

バックから

目薬を出して

目薬を開けるようなふりをした後

「この目薬空かないわ

敬子出来る?」と言って

敬子に渡しました。


その後敬子は

「出来ないわ」

と言いながら

目薬を

十詩子に返しました。


十詩子は

「開けてもらいませんか」

と言って

後ろの学生の机の上に

その目薬を置きました。


この間

十詩子は

上気して

顔を真っ赤にして

そして声がうわずってしまいました。


表現出来ないくらい

恥ずかしくて

消えてしまいたいと思いました。

後ろの悟は

突然前の女性が振り返りざま

目薬を

机に置いたのです。


悟は何が何だかわからなくなりました。


彼は先生が横道にそれたときは

勉強以外のことを

いつも考えていて

外のことは

聞いていないのです。


その上

十詩子の声が

うわずっていて

よく聞き取れなかったのも一因です。


でも

これは何かあると考えました。


悟は

一気に

耳まで

赤くなって

どうすべきか

考えました。

でも

しかし

どうしよう

などと考えて

5分が経ちました。


(実際は

悟はここでは何もしません。

しかし

この物語では、

少し違います。

悟はちょっとだけ違うことをします。

そのちょっとした行為が

ふたりの未来に大きく影響するのです。

ここからは

フィクションです。)


悟は

震える手で

目薬を手にとって

その口を開けて

小声で

「どうぞ」と言いました。


十詩子は

後ろを向いて

「ありがとう」と言って

目薬を受け取りました。


それから先生の講義が続いて

ふたりにとっては

長い授業が終わりました。


敬子と十詩子

そして悟は

席を立ちました。


敬子が

十詩子に

「目薬のお礼言ったら」

と言いました。

そう言われて

十詩子は

悟に目を合わせて

「ありがとう」ともう一度言いました。


悟は

「そんなに言うほどでも、、、

ところで

もうすぐ試験ですよね」

十詩子は黙って下を見ていました。


敬子は

十詩子の手を引っ張って

何とか言うように

目で合図しました。


十詩子は

「そうですね。

今度一緒に勉強しない。」

と小さな声で答えました。


悟は

「そうだね。

それも良いね」

と話しながら

エレベーターの方に

歩いていきました。

狭いガタンガタンと大きな音をたてながら

下りるエレベーターに他の学生と

黙って乗りました。


夜で暗くなった駅までの道も

黙って歩いていきました。


地下鉄で梅田まで

それから国鉄で

尼崎まで

3人で帰りました。


十詩子は知っていましたが

悟はこの時初めて

前のふたりの女性は

同じ駅から来ているのだと

いうことを初めて知りました。


尼崎駅では

3人の帰り道は違います。


悟は地下道を通って北側に

十詩子は南の警察署の裏手に

敬子は

東の支所の近くでした。


別れ際に敬子が

「十詩子一緒に勉強したら

今度の日曜日なんか良いんじゃないの

図書館にでも行ったら」といいました。


十詩子は

また顔を真っ赤にして

「一緒にどうですか」

と小声で言いました。


悟も

耳が熱くなるのを感じながら

「それはいいですね」

と答えて

日曜日に会う時間と待ち合わせの時間を決めました。


翌日会社にいつもより

早く行ってしまいました。

守衛室で鍵をもらって

経理課の部屋の鍵を開け

いつものように掃除をはじめました。


灰皿を掃除して

ゴミ箱のゴミを

捨てに行こうとすると

敬子がいつものように出社してきました。


「十詩子早いんじゃない。

それになんか嬉しそうだね。


そうだよね。


嬉しいはずだよね」と言われてしまいました。


十詩子は少し赤くなって

早足で

少し離れた

焼却場まで

行きました。

帰ってくると

敬子はお茶を入れていました。


「敬子さんちょっとお茶早いんじゃないんですか」

と十詩子が尋ねると、

「これは私たちの分よ

聞かせてよ

今度のデートは

どんな風にするの

本当に図書館に行くの?

そんな所じゃ

話も出来ないんじゃないの」

と答えました。


ふたりは

湯沸かし室の端に置いてある

古びた椅子に座って

話し始めました。


十詩子:

図書館に決まってるじゃないの

それ以外にどこに行くというの


敬子:

そーなの

何かつまんないの

でも食事何かするんでしょ

ふたりで

何食べるつもりなの

図書館なら

どこの食堂かな


十詩子:

そうね

朝会うのだから

昼ご飯は食べるのかな

わからないなー

こんな時はどうすればいいの

敬子さん教えて


敬子:

そうね

やっぱりこざっぱりした所が良いよね

中央商店街は少しね

やっぱり尼センデパートかな

十詩子:

ちょっとお高くない


敬子:

何言っているの

おごってもらうのよ

女性はいつもおごってもらわないと

いけないのよ

割り勘をする男なんかに

惚れたらダメよ


十詩子:

えー

そうなの

もし彼がそうだったら

どうしよう

やっぱり安い方が

良いよね

その危険性がなくて


敬子:

何言っているの

そんな事じゃダメじゃない


と言っていた所

部屋の方に

課長が来たような音がしたので

話は終わって

すぐに

お茶を入れて

持って行きました。


課長は席につくなり

熱いお茶が出てきたので

「おー

ありがとう。

十詩子さん

今日は何か良いこと合ったの

今日は綺麗だよ」

と言われてしまいました。


課長が

「十詩子さん

今日は何だか綺麗だよ」

などと言った事は

今なら

セクハラだと言われそうです。


でも当時は

当たり前で

十詩子は

「なぜわかるんだろう」

などと考えて

少し赤くなりました。


それをしっかり見ていた課長は

「やっぱり

明日はデートだな」

と言い当ててしまいました。


十詩子は

課長が

言い当てたのを

びっくりしました。


それを聞いていた

敬子も

「課長はやっぱり課長だけのことはあるな」

と思ってしまいました。


そんなうきうきした一日も

終わって

デートの日が来ました。


十詩子は

朝早く起きて

用を済ませて

念入りに

化粧をはじめました。

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