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永遠のテンポエムチャイルド その6

教室に残って

弁当を食べるのは

数人しかいませんでした。


ふたりはお弁当を机の上に出して

食べ始めました。


悟の弁当は

メザシと大根と人参の煮付け

でした。


十詩子は

そんなお弁当を

作ってあげたいと

密かに思っていました。


お弁当を食べながら

ふたりは

話しました。


悟:

僕はね

薬学部を卒業したら

今度は

建築学部に行きたいんだ

僕は建築士になるのが

夢なんだ。


十詩子:

そうなの

それはうらやましいわ

ふたつも大学を行くの


悟:

ごめんね


十詩子:

別に悟さんが謝らなくても

良いですよ


悟:

どう言ったらいいのかわからないけど

僕が出た高校で

学年で一番成績が良かった生徒は

家庭の事情で

大学には行かなかった。

でも一年経って

夜学に通っていると

聞いたことがあるよ。

この大学にも

2部と言って夜学があるんだ


十詩子:

そうなの

夜学ってあるんですよね


悟:

十詩子さんは

才能は僕より秀でているんだから

絶対に行くべきだよ

、、、、

、、、

、、、

ごめん

差し出がましいこと言って

ごめんね

十詩子さんは

ノートを見ると

すごく向いているように思うんだ。

僕よりきっと

大学向きだね。


十詩子:

そうかな

悟さんに

そう言われると

嬉しいわ


そんな話をしていると

悟の友達が帰ってきました。


悟の友達は

悟の周りに集まって

十詩子のことを

なんやかやと聞いてきました。


何歳だとかどちらの学校に行っているかとか

学部はどうかとか

聞いてきたのです。


悟は

適当の

答えました。


友達は

悟がどこで

十詩子と知り合ったのかも

聞いて聞きました。


悟はそのことについては

専門学校で知り合ったと

本当のことを言いました。


友達たちは

「専門学校も悪くはないな」という

結論になって

自分お席に座りました。


3時間目の授業も

同じように終わって

これで終わりです。


ふたりは階段を下りて

駅までゆっくりと歩いて帰りました。


駅の近くで少し脇道にそれて

喫茶店に入りました。


喫茶店で

悟は

大学での四方山話や

友達の事なんかを

十詩子に話しました。


1時間ぐらいねばって

店を出で

尼崎に帰りました。


別れる時に

次ぎに受ける

簿記の講習会のことも聞いて

今度は

専門学校で会うことを約束して別れました。


十詩子は

悟が地下道をくぐって

向こうへ行くのを

見送って

駅前の自分のロフトのお部屋に

帰りました。


靴を抜いて

椅子に座りました。


十詩子は

猛烈に大学に行きたくなりました。


高校を卒業した時家庭の事情で

大学に行けなかったことを

残念に思う限りです。


その日は

残り物で

夕食を済ませて

早く寝ていました。


でも

お布団の中に入っても

なかなか寝付けませんでした

どうすれば大学に行けるか

考えて

朝方まで

お布団の中で

考えました。


朝まで考え

少し寝不足にになって

会社に行きました。


会社に行くと

敬子が

寄ってきて

「昨日良かった?

手をつないだ。」

と尋ねてきました。


十詩子:

手はつないでいません。

それより

大学に行きたくなってしまいました。

夜学に行く方法はないでしょうか。


敬子:

何っ

藪から棒ね

大学に行きたいの

悟さんと行きたいのね

そうよね

そうしたら

毎日会えるもの


十詩子:

そんなんじゃなわ

大学で

授業を受けた来たら

大学って良いところだと思ったの

もっと勉強したいの


敬子:

そうなの

男の人で

夜学に通っている人は

多いよ

今課内にはいないけど

昨年まではいたわ

卒業して神戸工場勤務になったけど

でも女の子で

大学の夜学に行った人は

聞いたことないわ。

でも

課長に聞いてみれば

そんなに勉強したいんだったら


十詩子:

そうなの


そんな話をしていると

課長が出勤してきて

話は終わり

仕事が始まりました。


午前中は

仕事が忙しくて

課長に聞くことが出来ませんでした。


午後の仕事が始まり

仕事が

少し一段落して

課長が

いつものように

新聞を読み始めた頃

十詩子は課長のところにやってきて

話しました。


十詩子:

課長すみません

お話があります。


課長:

十詩子さんなどんな話ですか。


十詩子:

私夜学に行きたいんです。


課長:

夜学とは大学のことかね


十詩子:

はい 夜学の大学です


課長:

困ったな

十詩子さんは

優秀だから

大学に行くのはいいと思うんだけど

制度上困ったな

君は

高校出で

地域事務職で

入社したことになっているんだ

地域事務職は

会社の細則で

夜学には行けないことになっているんだ

男性職員の総合事務職でないと

夜学は少し難しいと思うんだ。


十詩子:

そうなんですか

男性なら行けて

女性はダメと言うことですか


課長:

そう言う事じゃなくて

地域事務職だからなんだ

男女差別ではないよ


十詩子:

絶対ダメなんですか

定時退社で

間に合うと思うんですが

(課長は十詩子の熱意に

圧倒されてました。)


課長:

そうだよね

そうだ

本社の総務課長に一度聞いてみよう

明日本社に行く用事があるから

その時聞いてみるよ。

我が社では

社員が社員が勉強することを

昔から応援しているんだから。

十詩子さんも知っているように

隣の高校は

我が社の高校だったんだよ。

今は尼崎市に寄付してしまったけど

少し待って


課長はそう言うしかありませんでした。

十詩子は少し力を落として

席に戻りました。


十詩子はがっかりして

席に帰り

その日の仕事を

済ませて

お部屋に帰りました。


新聞の

求人欄を

見ながら

夜学に行きながら

働くところがないか

調べてみました。


でも十詩子に都合の良い

求人があるわけでもなく

がっかりして

お布団に入りました。


その日もあまり眠られず

会社に翌日行きました。


その日は

課長は朝から本社に出張で

いませんでした。


夕方まで

伝票の整理をして

その日の勤務か終わりかけた時

電話がありました。


十詩子が出ると

課長の声で

「十詩子さんか

早く話そうと思って

電話したんだ

昨日話していた

夜学の話だけど

総務課長にきいてみたら

そんなに優秀な社員なら

夜学に行っても良いんじゃないかと言うことなんだ。

制度上

総合職に変えるので

転勤があるということだ。

それさえ良ければ

大学に行けると言うことだそうだ。

どうかね。

それで納得できるかな」

と電話がありました。


十詩子はすぐに納得して

「ありがとうございました」と

何度も言って

電話が切れました。


十詩子は

さっきとは

全く違って

ルンルン気分で

敬子のところに

やってきて

「私大学に行くの

大学に行くのよ

課長が良いと電話してきたの」

と話しました。


十詩子は

商店街に寄って

お魚と野菜を買って帰りました。

もう

十詩子は嬉しくて

嬉しくて

「悟と同じ大学に行けるなんて

夢みたい」

と思いました。


しかし本当はこれからが

大変だったと気付くのは

少し経ってからです。


十詩子は

まず敬子にその話をしました。


敬子は

「良かったね。

そんなに勉強したいんだね。

私なんかは

勉強はもう良いわと思うだけど

十詩子は本当に賢いよね」と言いながら

十詩子が

大学に行けることが

そんなに嬉しいことが

理解できませんでした。


それから

部屋に帰る途中の

公衆電話で

豊岡の実家に電話をしました。


もちろん大学に行っても良いか聞くためでした。


十詩子の母親が電話に出て

夜間大学のことを言うと

母親は賛成してくれました。


「仕送りはもう良いから」と母親は言ってくれました。


十詩子は

「すこし少なくなるけど送る」と

話しました。


母親は

嬉しそうな十詩子の声を聞けて

嬉しいと思いました。


十詩子は

部屋に帰って

大学に行くには

お金がいるんだと思いました。


それで預金通帳を見ました。

十詩子のお給料は

2万円弱の額です

お部屋の家賃は4,500円で

水道光熱費が3,000円

残り食費を使うと

殆どお金が残りません。


その中から

仕送りをしていましたから

全然貯金が出来ませんでした。


貯蓄は

小学生の時から

お小遣いや

お正月のお年玉をすこしずつ貯めたお金で

5万円ほどしかありません。


十詩子は

これでは

どうしようもないと思いました。


お金の問題が

わかったのです。


お金がない十詩子は

どうすればいいか考えました。


手っ取り早いのは

親に無理を言って

貸してもらうことです。


しかしこれは

最後の手段にしたいのです。


そこで

奨学金について調べることにしました。

当時は

返さなくても良い

小さな奨学金がたくさんあって

それを何とかして

もらえないかと思いました。


奨学金をもらうためには

成績が優秀でないといけないんですが

高校の時は

クラスではトップの成績でしたが

卒業して

半年も過ぎて

入学試験のこともあるし

いろんな事が

大丈夫かと

考えてしまいました。


こう考えると

何か八方ふさがりになってきて

今までの

高揚した気分が

しぼんでしまいました。


翌日の午後

課長に呼ばれて

夜学に行くための

資料や書類を渡されました。


その中に

会社独自の

奨学金のことが書かれていて

これが

好条件なので

一筋の光明が

見えてきたようになりました。


会社からの帰り道

書店によって

大学受験の

問題集を

購入して

部屋に帰りました。


その日から

夜遅くまで勉強が始まりました。


十詩子は

勉強しました。

課長は受験勉強があるから

別に行かなくても良いと

十詩子に言ったけど

簿記の専門学校にも

通いました。


もちろん

悟にも会うためです。

お弁当を食べる時間も惜しんで

勉強をしました。


家に帰ってからも

ロフトで勉強しました。

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