永遠のテンポエムチャイルド その10
十詩子はそんな話した後で
ちょっとドキッ
としました。
いつもは
聞き手に回っているのに
話してしまったことを
後悔しました。
会社の管理者研修で
部下の扱い方を
勉強し
その中で
男の自尊心には注意するように
と言うのがありました。
それで自慢話をしてしまって
悟のプライドを
傷つけたのではない
でもそんな心配をしたら
もっと
悟に悪いと思い
頭の中では
矛盾でいっぱいでした。
そんなことを考えていると
悟が
「授業もう始まるんじゃないの」という声で気がつき
「じゃ
また明日ね」と言って
別れました。
十詩子は
悟との話もあったように
職階級で課長代理
プロジェクトの
チーフになっていたのです。
これから大きくなる
電子計算機を使った仕事の一角を
十詩子は
しょって立っていくようになっていきます。
仕事に忙しい十詩子と
受験勉強に忙しい悟でしたが
ほぼ毎日
20分くらい
会っていました。
十詩子にとってはそれは
唯一楽しみでした。
悟の勉強は大変でしたが
十詩子の仕事は
順調でした。
十詩子の管理職としての指導が
うまかったのでしょうか。
それとも
良い部下が
いたからでしょうか。
プロジェクトは
上司の予想以上に
進捗し
実際に
仕事に使うまでに
なっていたのです。
仕事がうまく出来上がったとき
敬子に久しぶりにあって
色々と
仕事のことを話していて
次の課題を
思いつくことになります。
「経理処理を電算化するための伝票記入」という
新しい課題を
思いつくのです。
来年度の仕事を
作って
順風満帆でしたが
心配は
他にありました。
それは
悟が
同じ大学を
卒業すると言うことです。
卒業すれば
もう悟と簡単には会えなくなってしまいます。
悟が
春から行く大学が
同じ大学になることを
心から願っていたのですが、、、家に帰って
十詩子は
ロフトで
大学の勉強と
会社の課題を
かたづけるために
机に向かっていました。
でもはかどりません
悟のことが気になって
窓の外を
ぼやっと見ていました。
その頃悟は
滑り止めの
大学明日受験すると言うことで
勉強していたのです。
悟が受ける大学は
四つあります。
関西にはその当時
私立では
建築学科は四っつしかなかったんどです。
受けた順番に言えば
泉南の滑り止めの大学
城北の大学
本命の薬学部と同じ大学
関西では有名な北摂の大学
ですが
悟は自信がありました。
あれだけ勉強したのだから
と言う
自信です。
でも
実力が
卓越していなかった
悟にとっては
どっちに転ぶかは
試験は運不運だったのです。
悟の
プレッシャーを与えないように
十詩子は
応援に行きたかったのですが
止めておきました。
そしてその結果は
二勝二敗
本命の大学と
滑り止めの大学を
落ちてしまうのです。
こうして
次の年は
悟と十詩子は
あまり会えなくなってしまうのです。
悟も落胆していましたが
十詩子は
もう何も出来ないくらで
上司に「病気か」と
尋ねられるくらいです。
でも十詩子は
悟の前では
心の中とは反対に
悟を励ましていたのです。
でも心の中では
「悟のバカ!
悟のバカ!
悟のバカ!」
と叫んでいたのです。
十詩子にとっても
悟にとっても
残念至極でした。
でも運命は
受け入れられなければなりません。
悟は
北摂の
大学に進学して
十詩子は
本社勤めと夜学の
毎日でした。
悟は建築学科特有の
設計課題を
土日に書き上げ
月曜日に提出と言うことで
土日は忙しく
十詩子も
会社の課題や
出張先で土日を迎えたりするので
二人が会える機会は
極端になくなってしまいました。
遠距離恋愛のようなふたりは
しかし信じ合っていました。
どんなに別れて
会えなくても
ふたりの気持ちは永遠に
変わらないと
悟も
十詩子も
考えていたのです。
そんな一年は
悟にも
十詩子にも
長い一年でした。
実際には
お互いに忙しかったのですが
会えない事は
イライラして
待ち遠しくて
時間が長く感じていたのです。
十詩子は
一年経てば
大学を卒業して
自由な時間がすこしできて
悟と会えると
信じていました。
一年経って
十詩子は
大学を卒業しました。
十詩子の両親も
豊岡から出てき
卒業式に
でました。
十詩子は
二部の学科の総代として
卒業証書を授与されました。
十詩子の両親は
涙を流して
喜んでくれました。
悟も来ていて
悟を
両親にも紹介しました。
十詩子の
親はたいへん喜んで
4人で
食事をして
いろんな事を話しました。
悟と尼崎駅で別れ
帰った後
親は十詩子に
「悟と結婚するの
いい人じゃないの。
いつ結婚するのよ」
と聞いてきました。
十詩子:
「そんな仲じゃないの
まだまだ
結婚なんてまだなの」
十詩子の母親:
「何を言ってるの
あなたはもう
二三歳よ
適齢期じゃないの
いい人なら結婚しないと
行き遅れるじゃないの」
十詩子:
でも
悟さんは
学生の身だもの
結婚できないの
卒業してからになるんじゃないのかな
両親は
がっかりして
豊岡に帰っていきました。
卒業した
その年の年度末に
十詩子は
電算機室長に
呼ばれました。
電算機室長は
移動の内示を
告げたのです。
電算機室長の言うのには
「我が社は
この不景気を
全員の力を結集して
乗り切ると社長が訓示しました
我が電算化室でも
一層の合理化のために
東京本社の電算化室に全員移動することになりました。
君は
総合事務職なので
来年度から
東京勤務となります。
東京本社では
電算化支援チームの
リーダーとして
がんばってもらうことになっています。
大学もちょうど卒業だし
東京に
移動大丈夫だよね。」
と言うことでした。
この内示に
十詩子は
体の中が震えるのを
覚えました。
東京への転勤は
社内では
栄転です。
しかし十詩子にとっては
東京栄転は
栄転ではありません。
悟と別れるのは
本当につらいです。
4年前に
総合事務職に
変わったことを
うらやましく思いました。
でも後悔しても始まりません。
十詩子に選べる道は
次の三つしかありません。
一つ目は
大胆だけども
悟のところへ
押しかけ女房になる。
二つ目は
会社を退社して
この地で
再就職して
悟を待つ。
三つ目は
東京で
悟を信じて待つ。
この選択肢
いずれも無理があるように思いました。
自分の気持ちに
素直になれば
もちろん
悟の女房になることを
願うのですが
悟には
家族もいるし
そんな簡単に
出来るようなことではありません。
二つ目の
会社を退社するのは
世話になった課長や
室長や
敬子にも
迷惑を掛けて
恩を仇で返すようなことに
なってしまうのです。
三つ目の
悟を信じて
東京で待つのが
十詩子に残された
唯一の道ではないかという
結論になりました。
十詩子には
悟を信じることが出来ました
それで
十詩子は
悟に
東京にしばらくの間行くことを告げて
東京に転勤していきました。
悟は
ぼくを信じると言ってくれた
十詩子を
信じることにしました。
でも3年は
十詩子と悟にとって
少し長い時間でした。
転勤になるその前日
尼崎工場に行きました。
経理課長に
転勤の挨拶です。
それから
敬子に
会いに行きました。
敬子は
今も
経理課で勤務しており
十年一日が如く
伝票の整理と
計算です。
敬子:
お久しぶり
十詩子
いや
今は課長さんかな
十詩子:
そんな
敬子元気だった。
敬子:
元気だよ
十詩子がいなくなって
なんか寂しいよ
専門学校に行ったときが懐かしいね
十詩子:
もう
4年もなるね
敬子:
そうだね
悟さんとは
その後
どうなっているの
十詩子:
いつもと同じだよ
仲良くしているよ
敬子:
結婚の約束した?
十詩子:
まだまだ
悟さんまだ学生の身だから
敬子:
悟さんとはどこまで行ったの
十詩子:
どこまでって
どこまでって何?
敬子:
十詩子何言ってるのよ
十詩子もう23歳でしょう
そんな かまとと ぶらないでも
どこまでよ
十詩子:
どこまで?
話するぐらいだよ
敬子:
エー
5年も付き合っているのに
話するだけ
手ぐらい繋いだでしょう?
十詩子:
そう言うと
昔手をつなぎました。
でもあれっきりじゃないかな
敬子:
そうなの
それじゃ
友達じゃないの
十詩子:
そうだよ
私たち友達だよ
敬子:
恋人同士じゃないの
十詩子:
そうね
そうだよね
恋人同士だよ
敬子:
どっちなのよ
十詩子:
恋人同士だと思います。
いえ
恋人同士です。
敬子:
そんなんで
東京と大阪に別れ別れになって
大丈夫なの
十詩子:
わたし
悟さんを信じているから
敬子:
信じているだけで良いの?
本当に大丈夫
私心配だよ
敬子は
自分のことのように
心配してくれました。
そして翌日
5年間住んでいた
尼崎駅前のロフトのお部屋を
引き払って
東京に引っ越して行く日になりました。
引っ越しは会社の丸抱えの費用で
して頂きました。
十詩子は
引っ越し業者が
てきぱきと
片付けて行きました
荷物も少なかったせいもあって
小一時間も経たないうちに
荷物はすべて
車に乗ってしまいました。
車を見送ってから
家主さんのところに
お菓子を持って
挨拶に出掛けました。
家主:
十詩子さん
行ってしまうのね。
寂しくなるわ
十詩子:
お世話になりました。
大学行くときには
カンパまでして頂いて
今の私があるのは
家主さんお蔭です。
ありがとうございました。
家主:
いいえ
あなたの努力の成果よ。
5年前に
やってきたときは、
お下げ髪で
高校の制服がよく似合う
女の子だったわね。
今は髪の毛が
腰まで伸びて
もう一人前の
女性になって
東京に行っても
忘れないでよね
また尼崎に来たときは
寄ってよ
十詩子:
本当にありがとうございました。
また必ず来ます。
そう言って
別れました。
その後
十詩子は
仕事で
尼崎工場に来たときには
家主さんのところに
よく来ていました。
尼崎から
新大阪駅を経由して
東京に行きました。
新宿の
本社についてのは
3時頃でした。
本社の
電算機室で
室長に挨拶しました。
室長とは
東京出張の際
何度も会っていて
十詩子にとっては
少し苦手な上司でした。