クマのおいとま(1)
今日も主はぐで~っとして眠っている。
こっそりとスマホを弄っていると、ある写真が目についた。
奇妙な形をした美しい薄青色の花。
ぜひとも見たい。
主の寝ている隙に、お暇をいただき見に行こう。善は急げだ。
「近所の公園の花が咲いたので、お暇をいただきます。」
ああ、着いた。
いくら近所とはいえ、クマの着ぐるみで外を歩くのは大変だった。
冷たい風が汗ばんだ髪を梳いていくのが気持ちいい。
大温室の中は見たこともない植物でにぎわっている。
ガラス張りの天井から燦々と降り注ぐ日差しで、緑が輝いていた。
お目当ての薄青色の花は、まだ先のようだ。
県内でも有数の大温室、とHPで紹介されていた通り、見どころ満載だ。
のんびりと見て行こう、だって今日は”お暇”だ。
大温室の奥、薄青色の美しい花が見えてきた。
爪のように尖った不思議な形をした花。
写真でも興味を惹かれた色は、実物だとより鮮やかで宝石みたいだ。
家で寝ていたはずの主がいて、思わず声をあげてしまった。
聞けば、一人で出かけたのが気になり、こっそり後をつけてきたらしい。
……仕方ない、主はこういう人(自分は”かわいいクマ”だと訂正)だ。
ヒスイカズラをじっくりと眺めて大温室をあとにする。
公園内にある原っぱに腰を下ろして休憩する。
薄い雲がかかる空を見上げた。天気がいい。
主は、よく一人で山に行く。
単独行の危険性を指摘すると、誰もいない登山道で息を整えてる時間が好きだとか、己の筋肉と対話しているんだとか、語っていた。
要は、のんびりと息抜きをしているのだろう。
主と私はよく似ている。お互いに一人じゃないと息が抜けない。
嫌い合っているわけではなく、そういう性質なのだ。
……心配しなくてもいいのに。
隣で気持ちよさげに目を閉じている主に、微笑みながら言った。
「私の”お暇”なので、ついてこないでください」
【行ったところ】
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