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クマのおいとま(1)

 今日も主はぐで~っとして眠っている。
 
 こっそりとスマホを弄っていると、ある写真が目についた。
 奇妙な形をした美しい薄青色の花。
 ぜひとも見たい。
 主の寝ている隙に、お暇をいただき見に行こう。善は急げだ。

「近所の公園の花が咲いたので、お暇をいただきます。」

「想像よりも立派な温室ですね」


 ああ、着いた。
 いくら近所とはいえ、クマの着ぐるみで外を歩くのは大変だった。
 冷たい風が汗ばんだ髪を梳いていくのが気持ちいい。

「大きくて、温かくて、湿っぽい……。」
「蘭でしょうか? 宇宙人みたいな形ですね」
「けるべろす……?」
「こぼれ落ちるような日差しが綺麗ですね」


 大温室の中は見たこともない植物でにぎわっている。
 ガラス張りの天井から燦々と降り注ぐ日差しで、緑が輝いていた。

「地面にも見たことのない植物があります。キノコ……ですか?」
「こんな場所でのんびりできたら幸せでしょうね」
「精霊が住んでいそうな木ですね」


 お目当ての薄青色の花は、まだ先のようだ。
 県内でも有数の大温室、とHPで紹介されていた通り、見どころ満載だ。
 のんびりと見て行こう、だって今日は”お暇”だ。

「へ、ヘビかと思いました……!」
「探検隊になった気分です」
「香水みたいな上品な匂いがします」
「スタンプがたくさん押された木がありますよ、え? 違う?」
「温室の中に滝があります!」


 大温室の奥、薄青色の美しい花が見えてきた。
 爪のように尖った不思議な形をした花。
 写真でも興味を惹かれた色は、実物だとより鮮やかで宝石みたいだ。

「たくさん咲いてます!!」
「これが”ヒスイカズラ”、なんて美しいのでしょうか……」
「本当に綺麗だクマー!」
「あ、主!?」

 
 家で寝ていたはずの主がいて、思わず声をあげてしまった。
 聞けば、一人で出かけたのが気になり、こっそり後をつけてきたらしい。
 ……仕方ない、主はこういう人(自分は”かわいいクマ”だと訂正)だ。
 ヒスイカズラをじっくりと眺めて大温室をあとにする。

「原っぱで昼寝するの最高クマー」
「まだ寝るんですか?」


 公園内にある原っぱに腰を下ろして休憩する。
 薄い雲がかかる空を見上げた。天気がいい。
 
 主は、よく一人で山に行く。
 単独行の危険性を指摘すると、誰もいない登山道で息を整えてる時間が好きだとか、己の筋肉と対話しているんだとか、語っていた。
 要は、のんびりと息抜きをしているのだろう。

 主と私はよく似ている。お互いに一人じゃないと息が抜けない。
 嫌い合っているわけではなく、そういう性質なのだ。
 ……心配しなくてもいいのに。
 隣で気持ちよさげに目を閉じている主に、微笑みながら言った。

「私の”お暇”なので、ついてこないでください」


「ご、ごめんクマー……」
「”お暇”じゃない時に、また一緒に出掛けましょう。お供いたします」
「やったー!」

【行ったところ】

県立相模原公園内 『サカタのタネグリーンハウス』
http://www.sagamihara.kanagawa-park.or.jp/greenhouse.html


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